小説 | ナノ


  五月三十一日


 明日は単位となる任務が入っている。
 組同士でペアを組み、城に進入し指定されたものを持ち帰るという簡単なものだ。
このじめじめとしたくそ暑い中真黒の忍装束を着て、風通しの悪い城に忍びこみ、かつ見つからないよう天井裏に潜んだり…ああめんどくさい。
 しかし卒業のためである。やるからには徹底的に完ッ璧に任務をこなしてやる。

 明日の任務兼試験のために六年は午後の授業がなかった。忍具の調整を夕飯までに終わらせる予定だったが、さすが私。もう終わった。
 カーンというよく響く鐘の音が聞こえた。ヘムヘムの鐘が鳴ったということは授業の終了を意味し、委員会開始のために三々五々。または校庭で下級生がサッカーをして遊んだり、自主訓練していたりする時間が来たということだ。

 焙烙火矢に関しては予備があったし、それらはしめっている様子もないので新しく作る必要はなさそうだ。苦無、手裏剣、小刀などの刃物類を研ぐのみで終わった。
それにしてもあいつらは大丈夫なのか。先程からいけいけどんどんでバレーをしている声が聞こえていて、私は柄にもなくそう思った。
 文次郎の心配をしている訳ではないが、巻き込まれているだろう長次の心配はする。どうせ小平太が無理やり引きずって行ってバレーと相成ったのだ、おそらく。
今日の午後はみな明日の用意をするようにと言われているだろうに。文次郎はどうせ挑発されて参加しているのだろうからどうでもいい。

 予備としていただいてきた火薬の返却のため土井先生の部屋を訪ねた私だが、授業も終わっているというのに誰もいらっしゃらなかった。

 また一年は組は補習だろうか。 仕方ない、先に火薬だけ返しに行くか。

 踵を返した先に黒い塊を見つけた。一瞬視界に何かがちらつく。
 誰かの落し物かと思ったがそれは黒猫で、毛並みが黒々と艶やかであった。
 生物委員会所有の猫なのか、硝煙倉に行く道すがら、私からつかずはなれずの距離を開けてついてきている。
 私が動物に好かれるなど珍しいこともあるものだなと思いながら、いけどんバレーをしている小平太達の横を通った時案の定目に留まったようだ。

「あ!仙ちゃん!!」
「うるせえな小平太!いきなり…っ仙蔵!」
「お前ら、暑いのにお盛んだな。明日の準備はできているのか?」
「おう!晩御飯食べたらやる!」
「……小平太の準備は私のとともに終わらせている」
「あれ?そーなの?あんがとちょーじ!」
「まったく。甘やかすのもいいが程々にせねばいかんぞ、長次」

 こくりと頷いた長次へ抱きついている小平太に、思わずため息が漏れる。
 先程から黙りこくっている文次郎は私の後ろにいる黒猫が気になるのか、じっと見続けていた。

「どうした、あの猫が何か珍しいか」
「…いや、お前が動物に懐かれるの珍しいと思ってよ」
「そうだな、私もそう思ったさ。生物委員会所有だろうか」
「今、猫は居ないはずだぞ!なまえが寂しがってた!」
「ふむ…では野良猫か」

 小平太からの、というよりはなまえからの情報により、あの黒猫はくのいちの猫で私の後をつけていた…というわけではないようだ。今日の昼食は魚を食べたが、まさかその匂いでもするのだろうか?

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