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  朝練前


【朝練】

 冬至を迎える頃にはすっかり冷え込み、日の出の時間も大分遅くなっていた。太陽がルーティンワークをずらそうとも人間はそうはいかない。朝6時には起きて朝食を食べ、身なりを整え冷たい制服に身を通し(たまに面倒な時はジャージを着てしまうこともある)、くそ寒い中登校する。
 弁当持った、タオル持った、ドリンクボトル持った、朝練・放課後練用のTシャツ持った。

「っし」
「うっしじゃないわよアンタ教科書」
「……この後持つつもりだった」
「ハイ嘘。テスト終わって練習が始まるのが嬉しいのは分かるけど、程々に勉強しときなさいよ」
「程々でいいのか」
「優しいお母様でしょう」
「おー、素晴らしい素晴らしい。及川もよく言ってる」
「あら徹ちゃん出来た子だわ〜」

 ここで母親の機嫌を上げておけば、夕飯は大体俺の好きなものが出ると決まっている。今日も寒いし鍋が食いたい。出来れば揚げだし豆腐がいいけど、あれは準備も揚げるのも面倒だからと滅多にやってもらえない。土日なら俺が手伝うのを前提に作ってもらえるのだが今日は平日、俺はがっつり夜まで部活である。残念だが揚げだし豆腐の線は薄いのでそこまで期待はしない方がいい。でないと期待しすぎて「あっ……揚げだし豆腐じゃないんだ……」という落胆は味わいたくないからな!だからとりあえず鍋!


「はざーっす」
「おはようございます!」
「おはようございます」
「おー1年おは……」
「岩ちゃーん!おっはよ〜」
「おはよう」
「今日遅かったな」
「お前らそのTシャツ何で揃いもそろって着てんの?」
「岩ちゃん喜ぶかなって」
「お前が言うと悪意を感じる。だっせぇTシャツ揃って着てねえで体操着でいいだろ!」

 黒地に各自目立つ色でメッセージを入れたそのTシャツは、俺が誕生日の時に部員が着てくれたものだったが、なぜ今。

「お前ら何してんだ、各自柔軟は終わったのか?」
「はざっす!!」

 コーチから何か言ってもらおう。じゃないと俺は間違いなくビビッドな色の文字に目が移ってしまうだろうし、集中して練習することが出来ない。

「コー……」

 目に飛び込むビビッドカラーの祝福の言葉と黒。あんたもかよ。

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