小説 | ナノ


  部活前


 授業はすべて終了し、あとは部活だ!と教室を飛び出して体育館へ行きたいところなのだが、1年がレクリエーションで使うとかで、今日は部活時間が短くなってしまう。文化部やグラウンドを使っての部活の奴らはさっさと部室へ行ってしまったが、俺らはとりあえず部室に溜まっていた。外周にでも行けばいいかなと思っていたのだが、何やら花巻が全員に手伝ってほしいと言って来たのでとりあえず及川がやりたがった。

「は〜い!何やんの?全員一気には出来ない感じ?」
「爪貸してくんね?」
「爪」

 スクールバッグから水玉のポーチを取りだし、及川と向かい合って座った花巻は爪を貸してくれと言う。どうやって?と問いかける前に理由は分かった。水玉ポーチの口を開き中身を机の上に並べたのだ。水色、白、黒、紫、赤。母親がテレビを見ながらやっているのを見たことがある、マニキュアだ。

「マッキーどしたのこれ」
「姉ちゃんが」

 同窓会が近々あり、ちょっといいなと思っている男子に可愛らしいと思ってもらえるネイルをしたいらしい。自分では出来ないなら弟に覚えさせれば良いよね。とりあえず今週中には綺麗なフレンチネイルが出来るようになって。花巻姉ちゃんが言うにはこういうことのようだ。

「お前んとこの姉ちゃんまじ不器用だもんな……」
「そー。まあ俺もこれ出来たら女子にもてるかなって」
「もてたいんだ?」
「ごめん嘘母さんもやってほしいって言うから。お小遣い500円上乗せしてくれるって言うから」

 なるほど花巻家は女系なんだな。そう思っている間にも作業は進んでいた。水色のボトルの刷毛をふちで扱き、余分な液を落とす。及川の右手を手に取ったが、花巻はネイルをボトルへ戻した。
 塗らないのか?と思ったら水玉ポーチから新しい道具が出て来る。爪やすりだ。本格的だな、と言うと花巻は「コイツの爪割れてんだもん」と中指の爪をやすりにかけ始めた。

「及川お前サーブの時ひっかかるからって切ってんじゃねーの」
「なんだろ何かに引っかけた……うーん。何だろ?」
「俺らが知るかよ」
「だよね〜」
「これも姉ちゃんの?」
「そー。薬局で買ったらしいよ。爪切りで切ると断面がギザギザになるし、ぱちんってやった時に爪が跳ねて負荷がかかるとかなんとか」
「そうなんだ?」
「聞いた話だしどうだろーね?ん、削れた。塗るぞ」
「はあい」

 今度こそ及川の爪に水色が落とされた。小指から薬指中指……親指まで。はみ出さずに綺麗に塗れるもんだな。前の美術の授業でやった果物の模写ははみ出しまくって、いっそのこと、とふちの色を混ぜてしまった事を思い出した。

「なあこういうのって絵も描けんのか?」
「出来ないことはないけどシールとかが一般的じゃね?ベースに色塗って、シール貼って、トップコートって言って上からかぶせんの」
「ああ、なるほど」
「岩ちゃんなんか爪に描きたいの?」
「ああ?いや別に……」
「ゴジラとかどう?」
「いいな」
「ぶくく……いいんだ」
「花巻、及川はたいていいか」
「塗り終わったらいいよ」

 自分のはどうやるのか、と及川が尋ねたので花巻は自分の爪を塗って見せてくれた。利き手を塗る時は少し手が震えていたが、それでも赤色ははみ出さずに綺麗に塗れている。じゃあ次はフレンチネイルね。そう言って花巻は松川の爪に紫を乗せた。俺の爪には黒を。ゴジラ色だ。
 及川のようにすべて塗るのかと思いきや、指先5mm程のところまでしか俺の爪には塗られなかった。松川も全部塗ったのになぜだ、と首をかしげていると花巻から解説が入った。紫地に黒を塗る場合と、黒地に何か色を乗せる時は違うんだそうだ。黒が勝ってしまう可能性がある場合は、指先まで全部塗ることはせず、塗るとしても指先だけはうっすら塗るんだとか。

「フレンチネイルってこんな感じでバイカラーにすんの」
「バイカラーって何」
「ああ、えーと、2色にする?って感じ?後から乗せる色は少なくすんだ」
「ほ〜」

 紫の爪はなかなかに派手だなと松川を見ていたが、自分の爪を見るとまっ黒なわけで。小学校の時にマイネームを使って及川と自分たちの爪を黒く塗りつぶした時には親がびっくりしてたな。これもびっくりされんのかな。

「なあ花巻」
「どしたの岩泉」
「これ落とすやつあんの?」
「あっ」

 あの「あっ」は完全に忘れてましたの「あっ」だな。

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