×マギ
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リクエスト【マギに出てくるファナリスという種族の子が、進撃にトリップするという話はどうでしょうか!】



 薬草を取りに入った森の中で、赤い髪をした二人組を見つけた。一人は大柄で体格が良い男性で、一人は私と同じくらいの身長をした女の子のようだった。組み手をしていたかと思うと二人ともぴたりと止まり、へなへなと座り込む。お腹をおさえてしまったので、もしや腹痛!?と思い駆け寄ると、ただたんにお腹が空いていただけのようだった。お昼ご飯に、と持ってきていたサンドイッチやベリーを練り込んだベーグル、試しにと作ったお茶っ葉入りクッキーを差し出すとぺろりと食べてくれた。男性がマスルールさん、女の子がモルジアナちゃんというらしい。
 モルジアナちゃんが、どうしてここにいるか分からないと言うので、とりあえず二人ともうちに来てもらうことにした。匂いが違うからシンドリアではない。マスルールさんはそう言ったが、「シンドリア」なんて国は存在しないはずだ。辺鄙な村の名前だろうかと思って聞いてみるものの、マスルールさんから帰ってきた答えは驚くべきものだった。シンドリアとは海に囲まれた島だと言うのだ。海なんてものはこの世界に来てからは全く見たことがない。どの本を読んでも海と言う記述はないし、あったとしても禁書というべき本でしか見たことがない。前の世界だったら、日本は海に囲まれていたし、夏ともなれば海水浴が当たり前であった。
 私と一緒で、彼らは世界を越えてしまったのだと思う。二人はファナリスという種族らしく、髪の色、目じり、雰囲気などとても似ているし、私は二人が兄妹なのかと思っていた。私のもとの世界においても「シンドリア」なんて国はなかったし、シンドバッドという名前は千夜一夜物語では聞いたことがある。しかしシンドバッドが一つの国を統治していただなんて歴史は習った事がない。……日本史専攻だったからかしら。


 ウォール・シーナの家は、おばあちゃんが居なくなってから広くなったなあと感じていた。リヴァイも軍属になってしまって、忙しさのためかなかなかうちには来てくれない。やはり一人の寂しさもあったのだろうけど、この二人は悪いことを考えそうになかったから、私から一緒に住むことを提案した。

「あの、私なんでもお手伝いします」
「あら、だったらお店を手伝ってくれるかしら。パン屋さんなの」
「は、はい!」
「手伝います」
「マスルールさんはとくにね、薪の調達とか力仕事をお願いしても良いかしら。出来れば屋根の修理とか高いところも……」
「任せてください」
「私もお手伝いできます!」
「これから一緒に住むのだから、二人とも敬語なし!」
「っす」
「あ、はい……おいおい……」




 朝起きて修行、ご飯を食べてパン作りの手伝い、パン屋さんで売り子をして――その間にマスルールさんは肉を狩りにいったり、私が指定した薬草を取りに行ってくれたり――まあ修行をして、晩ご飯、そしてお風呂。週3でパン屋さんがお休みなので、お休みの日はみんなでお菓子作りをしたり、お昼寝をしたり、お買い物に行ったり。マスルールさんとは歳が同じだったようで、同級生のような、手のかかる弟のような存在だった。モルジアナちゃんは頑張り屋さんで、何ごとにも一生懸命取り組んでくれた。縫物も頑張って覚えようとしてくれたし、お料理もとても上手になった。


 そうして一緒に住み始めて一月後、845年のことだった。ウォール・マリアが壊されたと騒ぎになった。もと日本人の私からすると、レンガ造りっぽい壁ごときで、大敵と隔たれているなんて考えてしまうこの世界の人間は、どうかしているんじゃないかと思っていた。
 百年、何ごともなかったから今後も大丈夫だと。確かに百年と言う月日は長い。現代日本においても戦争の悲惨さを知らない子どもたちは多いが、忘れてはならないこととして、義務教育期間中にみっちり教え込んでいる。戦争を経験していない世代にも、事の次第を知っておくようにと。
 この世界はどうだ。まず、全員が通うような教育機関がないため、識字率や常識、倫理などが大きく欠如している。巨人とは隔離されているこの暫定的な現状に置いて、危機感を覚える人間は恐らく調査兵団くらいしか居ないのではないか。
 内地には資源が豊富に存在しているとはいえそれが有限的に採集できるとは限らない。閉ざされた壁の中だけでは今後生きていけないはずだ。現にウォール・ローゼに避難してきたマリア層の人達の食事を確保できていないらしい。
 846年に領土奪還を賭けた総攻撃が敢行されるが失敗に終わる。未だ内地にあまり影響がないため、シーナの人間はローゼ、マリアで起こったことは一つのニュースとしてとらえているようだった。


 「ナマエ、お前は兵団には入るな」

 そう言って調査兵団へ行ってしまったリヴァイの噂はよく届いた。人類最強と噂されるようになってからは少しばかり安心したが、壁外調査へ出掛けたらしいと話が届くたびに私はソワソワした。パンを売っている時も、晩ご飯を作っている時も、お休みの日も。人類最強は無事であったと聞くまでは落ち着けなかった。

「……ナマエ」
「ん?なあにマスルール。マフラーならもうすぐ出来るよ。モルジアナちゃんとおそろいの色で、フリンジ付きで……」
「……無理して笑うな」
「ナマエさん、わ、私もそう思います」
「……」

 そう言いながら頭をぽんぽんしてくれるマスルールに、リヴァイが重なった。体格も声も手の大きさも、指の太さも違うのに。隣に座って頭を撫でてくれるマスルールの手の暖かさと、マスルールとは逆隣に座るモルジアナちゃんも、手をぎゅっと握ってくれる。

「わ、私ね、寂しいの。忙しいのは分かってるんだけど、小さい時から、いっしょに居てくれたのに。いきなりいなくなっちゃって。一緒のところに行きたいって、そう言ったら着いてくるなって。調査兵団にも、訓練兵団にも、入っちゃだめだって。お前は死んでしまうからって。それ、それでもいいのに。一緒に、居られたら、それでいいのよ」

 二人の体温と優しさのおかげで、リヴァイが居なくなってから泣くことを我慢していたが久しぶりに泣くことが出来た。泣いて寂しくなっても、二人が慰めてくれるから泣いても大丈夫。明日からも頑張れる。

「……行きましょう」
「え?」
「ナマエは俺たちが守る」
「力の限り守ります。だから行きましょう」
「え?え?」

  こうして来期の訓練兵に、最強の戦闘民族ファナリスの二人(と貧弱なパン屋の娘)が入団することとなる。


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