×海賊
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リクエスト【死んだ白髭が3、40才若返って進撃に、とか。】


 馬鹿な息子を助けるために、大事な息子たちを助けるために。戦い傷つき、しんがりをつとめた自分は息絶えた。悔いの無い人生だった。自分が一番欲しかったものを、得ることが出来たし、最期に守れただろう。頭は半分吹っ飛んじまったが渾身の一撃は赤犬に叩き込めた。無事に馬鹿息子たちは逃げられただろうか。

 しかしそれにしても自分は死んだはずであった。それは間違いない。

 こぢんまりとした木造の部屋には簡素な机と椅子、そして自分が寝転がっているベッド。ほんの少し、というよりだいぶはみ出してしまっているが、自分は清潔なベッドに転がされていたようだ。しっかり洗って干しているようで、優しい手触りだった。
 ベッドのそばの机にはトレイがあり、水の入ったコップとスープの器、そしてパンが置かれていた。コップは水滴がついていて、十分に冷えている水が入っているようだ。そしてスープの器には薄く黄色がかっていて、中にはしっかりと火の通った野菜が入っている。平たい皿に置かれているパンに関してはなんというかもう、美味そうとしか考えられない。
 食べても良いのだろうか。空腹を覚えたエドワードはスプーンを手に取り、スープの器を持ち上げる。エドワードにとっては器もスプーンも小さく思えるが、この際それは問題ではない。野菜ごと汁を掬い、口へ運ぶ。……!これは……

「……うめえなあ」
「お口に合ったようで」
「!」

 ドアを開けて入って来たのは、ハルタよりも小さいか、麦わらの小僧よりも小さいであろう少女だった。

「起きられてみてどうですか。外傷はないようなのですけど、お召しものに血がついておりましたので」
「ああ……大事はねえなあ……」

 そう言って自分の身体を見回してみて気がついた。肉体が若いのだ。手を表に裏にと返してみてもしわが少なく、体の衰えも感じられない。むしろ全盛期といったところか、恐らくこの身体は20代後半だ。なぜ。

「あの、顔色が悪いようですが、大丈夫ですか」
「あ……ああ……悪いな。グラララ」

 差し出された水を飲み、グラスを机に置いたところで少女から自己紹介をされた。ナマエ・ミョウジ。さらにナマエはこう続けた。
 ウォール・マリアでお店を出すため、店舗兼家のこの建物に久しぶりに来た。内装や部屋を整える作業していた次の日の夕方、家の前にあなたが倒れていたので介抱した。見たことの無い服だったが、血がついていたので脱がせたが、身体が大きかったのでとても苦労した(ここは笑いながら話した)、ほぼ一日お休みになられていたので、今はあなたを見つけた次の日です。

「お召しものはあちらにお持ちしております。綺麗に汚れが取れてはいないので……すみません」
「グラララ!いいさ、ありがとな。ところでちっとばかり教えてほしいんだが……」
「はい、なんなりと!」



 ナマエの家に住みつき、ナマエがおおもとを経営している用具店――ここにはイゾウが持っていたような品が多い――を任されるようになったのが三年前だ。勝手も常識も違うこの世界で生きていくにはどうするか、と考えていたところでナマエからお店をお願いしたい、と頼まれたのだった。新しい店舗が出したかったが信頼のできる人になかなか巡り会えなかったので、ちょうどよかった、と。基本的な販売物の製造は店長が行うので手先が器用だとなお良いと。エドワードはその点に関しては優秀であった。大柄な体躯を怖がられてはいたが、ミョウジの名前が入った商品を売っているということでわりとすぐに、この地区では受け入れられた。物怖じをしない猫目の少年と、夏でもマフラーを巻いている少女、そして優しげな金髪の少年は最初の客であり、彼らはおつかいで来店していた。それからというもの、三人組はたびたび店を訪れるようになる。


 夏場には扇子やうちわがよく売れるし、冬場には羽毛布団というものが良く売れた。もとの製品を作っているのはナマエだ。エドワードが作ったものより丁寧だし、女性向けにしているのか細工がとても細かい。扇子の骨に小さく模様を入れる、なんて芸当はまだエドワードはには出来そうもない。また、ナマエがたまに持ってくるお菓子の詰め合わせ袋などは、目にした客が必ず買って行くほど人気である。この地区のちびっ子用にと作りだされたお菓子袋も、大抵すぐに売り切れる。(顔なじみ三人組の分は、ナマエが別に袋を用意していて、それらは猫と犬と兎の袋であった)


 なかなか順調に店を経営しているエドワードのもとへ、週に一度、ナマエは訪れた。「この世界には慣れましたか」「前の世界のように、宝物は見付かりそうですか」どうやら自分を心配してのことらしい。年下のナマエに心配をかけてしまって申し訳ない気もするが、この距離感は離れがたかった。ナマエが訪れたら必ずお茶を出したし、店が忙しい時には断りを入れて、家の方で待ってもらう(ナマエは大体店を手伝ってくれようとするのだが、どうしても手を抜きがちな家事をお願いするのだ)。月に四度しか会えないのだから、来てくれた時にはせっかくだから色々と話をしたい。
 もとの世界で生きていたことから考えても、エドワードにとってナマエはかわいい娘のような、孫のような感じだった。ナースとは違って、ほんわかとした雰囲気で周りを和ませるナマエのことは、目に入れても痛くなかった。


 そうやって娘のように、孫のように、この世界の年齢でいったら妹のように、大事にしてきたのだが、ナマエにはどうやら悪い虫がついているようだった。

「リヴァイさん、ここが私のお店から派生したお店です」
「……悪くない」
「でしょう?店主さんがね、手先がとっても器用で、私が作るものにとても近いんです!ね、エドワードさん!」
「グラララ!ありがてえ言葉だ!」

 やたら目つきの悪い黒猫のような男はナマエとほぼ背が変わらず、またエドワードとは年齢がほぼ一緒のようだ。ナマエと職場が一緒で、ナマエの上司。
 ナマエを泣かせるようであればタダじゃおかん。エドワードには悪魔の実の能力が健在であった。
 確かナマエは軍属であったか。海軍を思い出すので、「軍隊」というものにあまり良い印象はないが、ナマエが居るなら入ってもいいかもしれない。妙な虫からも守れるし、巨人の脅威からも、自分であればナマエどころか軍全体も守れるはず。


 こうして来期の訓練兵に、大海賊エドワード・ニューゲートが入団することとなる。


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