女らしさとは
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リクエスト【ジャンと対人格闘術、思いっきりぶっ飛ばしたら「おとこ女め!少しは慎みを覚えろ!」、頭にきて喧嘩してたら教官に見つかって二人で外周「お前のせいだ」とまた喧嘩、晩飯抜きで死にそうになってたところクリスタがやってきてクリスタ女神】


 
 対人格闘術の時間いつも組んでいるアルミンは「今日は身長差のある人とやってみたいんだ」と言ってすたすたと向こうへ行ってしまった。ほどほどにふっ飛ばしやすいアルミンを何度転ばせたか分からないが、私と組むの、本当は嫌だったのかな。しょんぼりしながら手の空いている人を探すが、なかなか見つからない。剣を模した棒っきれをもてあそびつつ、話したことのある人を見つけようと歩いていた。
 ふと見るとすごく白熱した試合が展開されていて、誰だ誰だと見てみるとアニとエレンが組んで試合をしていた。アニの蹴りはすごいと思う。小柄なあの身体で自分より大きな男子だって転ばせてしまうんだから、うん、すごいと思う。私が男子を吹っ飛ばせるのは偏に、成長期の問題であろう。男より女の方が成長が早いため、私の身長は男子の中でもなかなかでかい。アニが「150cmになりそう」と嬉しそうにしていたが私は去年160cmを超えたよ……。
 鋭い蹴りを受けてひっくり返ったエレンだって、まだ150cm台だというじゃないか。私を振ってどこかへ行ってしまったアルミンだってこの間150cmになったって言って喜んでいたし。――あの時のアルミンが可愛くて思わず彼に飴をあげてしまったのだが、子ども扱いをしないでくれ!と怒られるかと思いきや、ものすごく喜んでくれた。これを見ていたミカサが「なるほど」といった表情をしていて、何をするつもりなのかと思っていたが彼女はしばらくの間エレンに物を捧げ続けることとなる。どっちかというとこの点に関してアルミンに苦言を呈されてしまった。私は悪くないと思うんだけれど……。

 巨人がついに壁を壊し、安全な場所など無くなってしまったこのご時世、守られたいとは思わない。思わないが、身長の高い女は可愛げがないと同期の男どもが言うので、自分のこの身長はちょっとしたコンプレックスである。同じくらいの身長をしているミカサからすると「エレンを守るため」なら身長は高い方が嬉しいようで、伸びるたびに報告をしてきた。おめでとう、私も順調に伸びているよ。好きな人に追いつくレベルだよ。

 対人格闘術のペアをアニにお願いすると、必ずと言っていいほど向こうずねやふくらはぎなど、足に青あざが出来てしまう。彼女と試合をするのは良い勉強になるのだが、青あざが出来るとその後何日かはその部位をぶつけると痛いからいやだ。ブーツで隠れるからいいんじゃないかとかそういう問題ではなく、単純に痛いのは嫌、それだけだ。
 となると、やる気のないやつでも捕まえて今日は適当にこなそうかな。そう考えていた私に声をかけたのは馬面と二つ名を冠しているジャンだった。どちらかというとジャンはエレンに対して突っかかってくるのだが、私もついつい色々と言ってしまうので、会えばほぼ口喧嘩ばっかりだ。でもまあ探すのも面倒だし、あちらから言ってもらえて助かった。適当にやろうぜ〜と言っているので、いつも通りジャンはあくび交じりに取り組むのだろう。……適当に……。いつも通りでいいかな。

「ありがと誘ってくれて!一緒にやろ!」
「っお、おう」

 足のベルトに挟んでいた剣をジャンに投げ渡してある程度の間隔を彼からとり、迎えうつ姿勢で構える。アニの構えと少し似ているのだが、彼女が顔の前に拳を置く構えをしているのに対し、私は防御をしない。手は握らないし、防御の構えも取らない。手は手刀の状態で利き手を前に、もう片方の手は腹の前へ。どちらの手も指先は相手へ向ける。
 この格好がおかしいと最初はさんざん笑われたので、笑った奴らを片っ端から放り投げてやった。ペアになることが多いアルミン、ミカサ、エレン達は転び方が上手だが、ジャンとはまだやったことがなかったはずだから、放り投げないように気をつけなきゃ。行くぞーとのろのろ走ってくるジャンへ攻め込む隙はあり余りまくっていた。



 手から木剣を落としたジャンは目つきの悪い目をぱちくりさせながらひっくり返った。普通は向かってくる力を利用して放り投げるのだが、ゆっくり走って来たためジャンを投げるのは少し力が必要だった。
 繋いだままのジャンの右腕をそっと離すと、彼はどさりと地面に倒れたが木剣を掴んですぐに立ち上がった。

「何しやがる!」
「えっ?だって適当にやるって……」
「適当かアレが!?お前にとって男をひっくり返すのが適当か!」
「ええ……?」
「この男女!お前少しは慎みを覚えろ!」
「あんたにそんなこと言われる筋合いはないね!」
「忠告してやってんだろうが!」
「ご親切にどーうも!大きなお世話だ!!あんたこそ授業真面目に受けてみたらどうなのよ!!」
「あんだとぉ〜?この授業はあんまり点数になんねえから息抜きしてんだよそれくらい分かんねえのか!!」

「ジャン・キルシュタイン、ナマエ・ミョウジ」
「「はっ!」」
「貴様ら死ぬまで走れ」
「でっですが教官、私はキルシュタインを放り投げ、その結果彼に怒鳴られていただけでありまして」
「あってめっ!教官、私はミョウジにやり方のコツを聞いていただけであります!」
「嘘つくのやめなさいよ!!」
「うるせぇ黙ってろ!!」
「ジャン・キルシュタイン、ナマエ・ミョウジ」
「「はっ!」」
「夕食は無しだ。授業後外周に励め」
「「……はっ」」



 「お前のせいだ」「あんたのせいだ」とお互いの足を引っ張り合いながらへとへとな状態で外周を続けるものの、最後の方はお互い会話もしなくなり、もくもくと走るだけだった。喉が渇いた、お腹が減った、足が痛い、わき腹が痛い。頭の中をぐるぐると駆け巡るのはマイナスの感情ばかりで、走り終わってからもそれは変わらなかった。
 脱ぎ捨てたジャケットを拾いあげると「ナマエへ」と小さなメッセージカードがぽろりと落ちた。なんだ、と思いながらそれを裏返すと「ジャンと一緒で良かったね」「やったじゃないか」などなど色々な人からの励ましのメッセージが添えられていた。おいやめろ、これ、知らない誰かに見られていたら私は……私は……!

「何座ってんだ、風呂行かねえのか」
「ひっ!行くよばか野郎!」
「……ああそうかよ!」

 憎まれ口しか叩けない上にジャンとおんなじ身長のこんな女、可愛げがなくて当然だ。メッセージカードをズボンのポケットに突っ込み、ジャケットを腕にかけて歩きだそうとするのだが疲れ切った足は一度座り込んでしまうとなかなか動かなかった。ジャケットをひるがえして歩いていってしまったジャンの背中を見送りながらため息をつく。
 ミカサみたいに振る舞えばいいのか。そうしたらジャンと喧嘩しなくて済むかな。もんもんと現状を打破するための策を考えるが、こんなことはいつも思っているのに実行が出来ていない項目である。つまりミカサのように寡黙で必要な時にのみ喋るなんて私には無理なのだ。

 よっこいしょと地べたから立ち上がり、階段へと腰を下ろす。石の階段はズボン越しにじわりじわりと冷たくて、火照った身体にはちょうどよかった。もう少し休んでから行こう、そう思っていた私のもとへ足音が二つ届く。暗がりから姿を見せたのはすたこらと去って行ったジャンと、水差しとパンを持っているクリスタであった。ほんの少しの灯りしかないのに、クリスタの周りにはお花やキラキラした何かが見えるような気がした。

「クリスタまじ女神……」
「おい俺は?タオルを持って来てやった俺はなんだ」
「馬面」
「はっ倒すぞナマエ」
「け、喧嘩は良くないよ二人とも……!」


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