お料理教室
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リクエスト【メシウマちゃんの指示でてきぱき動くへーちょとか可愛くないですか…】【訓練生に教えるため、出張してほしいです!】



 その日いちにち、健やかに過ごすためには食事が最も大切であるとナマエは思っている。そのために寮生活を強いられている兵団の食事は改善されるべき、との申し出をしたところなんと受諾された。手始めに兵団本部の食堂に手を付ける。ここでは料理の手順と適切な量の調味料の指導、火の通し方やその時間、そして食材の切り方など改善すべき点は多々あったためナマエがお役御免になる日は遠かった。

 そんな中、訓練兵の指導へと向かうリヴァイに付いていったのだが、訓練兵駐屯地でも料理の指導を行うよう上から通達が来た。はりきってエプロンにアイロンをかけていると、後ろから「これも頼む」とリヴァイからワイシャツを渡される。いつもやっていることだが毎回毎回律儀なことに、リヴァイは礼を忘れない。リヴァイと結婚する女の人は嬉しいだろうなあと思いながら手早くアイロンをかけてやり、きっちり畳んだシャツを彼に渡した。駐屯地では数日滞在するようになっているので、彼も私も荷造りをしている。あとはこのエプロンを入れるだけ。エプロンをくるくると小さく折りたたみバッグへと押し込んだ。



 初日は当番の訓練兵に混ざってご飯を作った。パンとスープだけの簡素な食事で若い盛りの、しかもきつい訓練をこなしてきた子どもたちが満足できるものか。せめてと思いパンに芋を混ぜて焼いたところ、ポニーテールの女の子が嬉しそうに食べてくれていたので嬉しく思った。
 迎えた料理指導の時間は、作ったものが昼食にあたるようにと午前中にあてがわれた。厨房では訓練兵たち全員が入れないので教室を使ってもらうが火を使うことは出来ない、とのお達しなのでそれならばと切る、計るなどの指導をすると提案をした。数種類は手順を教えて厨房で作ってもらうことになる。出来あがったものがここにと出すことになるので、朝食後すぐに厨房を使わせてもらいいくつか料理を作った。卵を使ったもの、夏野菜を使ったもの。午前の授業前に厨房を覗いたリヴァイを呼ぶと、嬉しそうに試食をしてくれた。

 教室に料理を運び終わり、続いて使用する食材も運び込む。室外の小屋へと向かったため外していたエプロンを付け直して、器具と食材の確認をしていると隣に誰かが並んだ。おや、と思って顔を上げると揃いのエプロンをつけたリヴァイが皿を持ってきていた。

「えっなんで?」
「手伝い」
「リヴァイ授業は?」
「終わった」
「そのエプロン持って来てたの?」
「一番にカバンに入れた」
「そ、そう……」

 なんと立体機動のベルトを付けたままのリヴァイが調理助手を買って出てくれた。もとからそのつもりで私物のエプロンをバッグへ忍ばせていたらしいが……気付かなかった。手を洗って来たかと問うと無言で頷き、下ごしらえはどうするのかと逆に問うてくる。珍しくリヴァイが料理に対してやる気に溢れている。それならばと、手順と調理ポイントを説明する時に掲げてほしいもの、この時にこれを鍋から取り出して……と私は一つひとつ丁寧に言っていった。
 お料理教室みたい。くすりと笑った私に対してリヴァイは首をかしげたが「昔を思い出すな」なんて言うものだから、平和だった毎日が懐かしくて、少しさみしかった。あの頃はのんびり暮らしていたのになあ。

 お料理教室の時間が近づくと、教室は徐々に訓練兵で埋まった。ある程度入り混じっているが前の席は女の子が多く、後ろの席は男の子ばっかりになっている。料理に対しての意欲の差かしら。前方の席に座る男の子は少ないのでついつい目をやってしまうのだが、最前列に並んだ男の子のうち、一人は料理に対してというかリヴァイに対して視線を飛ばしている気がした。キラキラしたお目めが宝石を思わせるこの男の子と目が合うと、私にもなぜかキラキラした視線を送ってくれた。嬉しそうな顔を向けられて悪い気はしないのだが、隣に立つリヴァイの機嫌が少しよろしくない気がしたので、持参した焼き菓子をリヴァイの口に突っ込んだ。









 以前から通達のあった、訓練兵の料理技術向上の講義は女子にとっては有用であると感じていたらしい。それに対して男子はめんどくせえと口々に言っていたし、俺もそう思っていた。せっかくリヴァイさんの授業を受けられるのに、それとは別に料理の時間があるとか。いらないからその時間をリヴァイさんの講義にあててくれねえかなあ。
 迎えた特別講義の日、リヴァイさんの講義だけじゃなくいつもの教官の授業もあったためへとへとで迎えたその日の夕食は、何かが違った。パンとスープといういつもと変わらない献立なのだが、食べてみると言いようもなく、もの凄く美味しかったのだ。飯当番の奴らに話を聞いてみると明日の料理講義の教官が手伝ってくれたとのことで、いままで憂鬱だった講義に興味がわいた。

 アルミンとミカサをひっぱって教室まで来てみると、教卓のかわりに長机が運び込まれており、その上には野菜やら包丁、まな板など、綺麗に配置されていた。指導教官の目の前の席がまだ空いていたのでそこに滑り込むと、教官の女の人と目が合った。この人が昨日の美味しいご飯を作ってくれたのか。思わず尊敬のまなざしで見つめていると女の人はにこっと笑った後、エプロンのポケットから小袋を取り出し中身のお菓子をリヴァイさんの口に放り込んだ。えっ……。固唾をのんで見守っていると、リヴァイさんは「この味も悪くない」と言って残りをねだっていた。甘党なのか?


 彼女はナマエ・ミョウジと名乗った。彼女の講義は、料理の基本からはじまり、調味料を減らしても味わいのある料理の作り方など、訓練兵があまり実践していないような話をしてくれていた。

「エレンは……美味しいご飯の方が好き……?」
「当たり前だろ。昨日のご飯美味かったし、あんなの毎日食べれたら良いよな」
「うん……」

 こんな会話をした後、ミカサはアルミンと同様熱心にノートをとっていた。こいつも昨日の飯が美味かったって思ったんだろうな。昨日はスプーンの進みがいつもより速かったし、サシャに盗られそうになったパンを死守していたし。
 それにしても絶妙のタイミングで器具や調味料を差し出すリヴァイさんも素敵だ。ナマエさんが作っている料理はあまり馴染みがないが、少ない材料でしかも簡単に作れるとなればこれから食事時に並ぶだろう。

「材料を同じくらいの大きさに切ったら……あ、リヴァイありがとう。彼がパッドに並べている野菜が見えますか?こうすることで火の通り方が違ってきます。硬い野菜からお鍋に入れるのを忘れないでね」
「完成品はこれだ。誰か試食したい奴は手を上げろ」

「調味料を入れて水を張ったお鍋に皿ごと入れます」
「そうして出来た物がこれだ。後からお前らも作るんだからよく覚えとけ」

 ナマエさんの説明に合わせて野菜や皿を持ち上げて見せたり、使い終わった器具を回収したり、一緒に野菜を切ったり。リヴァイさんは兵士としてだけじゃなく料理人としてもイケるんじゃないだろうかと、ナマエさんの講義中にそう思った。



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