少年、言語の壁に阻まれる
少年が切符を改札に吸い込ませて改札口を出る。上からぶら下げられている案内板を見上げ、さあどうしようと少年は少し考えた。
来る前にテニスコートの場所は確認したが、地図で見ただけでは行き方はわからない。そもそもどっちがどっちなんだか……。
まあここは仕方がない。先ほど電車内で男たちにテニス講座を開いた際にそばにいた少女がそこにいる。いっそ聞いてみればいいのだ。
「ねえ、あんた」
「あ、はい」
敬語なんて概念のない呼びかけに少女はびくびくとしながら答える。
「テニスコートどこにあるかわかる?」
「あ、はい、えっと、ここから右に行ってそのまままっすぐのあと左、です!」
南口を指さすその先を目で追いかけながら、少年は迷わなくて済みそうだと安堵する。
「ありがと。じゃあね」
長いblaidだな、と思いながらも少年は別れを告げる。そういえばblaidの日本語はなんだろう、後で調べるか、と少年は考える。
そして少年は少女のを信じたことを後悔した。
歩いても歩いてもつかないもんだから通りの人を捕まえて聞いてみればなんと正反対の方向だ。悪意を持って教えられたとは思えないが試合に遅れたのは事実。日本が時間に厳しいのは知っていたがそのまま失格となってしまった。
仕方ないな、と諦めていればその少女が芝生に座っているではないか。少女も責任を感じているのか何かおごってくれるというのでファンタを指しながらソーダを頼むといえばソーダはないと返される。はて、親にソーダ頂戴と言えばいつもコーラだったりスプライトだったりを出してくれるのだが。
「ソーダはないけど、ファンタならあるよ。これでいい?」
ソーダとファンタ、あまり違いが判らないのだがとりあえずはそれでいいだろう、と頷けばなんと少女は財布を忘れたと慌てている。なんてこった。
なんとなく自分のだけでなく少女の分も買って渡す。
少なくともこの時は、将来を共にすることになるだなんて思ってもいなかったのだ。
少年、言語の壁に阻まれる