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星に願いを

「せーらん」

「主上、どうされましたか?厠への付き添いですか」



劉輝の寝所の警護をしていると、室の主が扉から顔を出した。



「…そなたは余をいくつだと思っているのだ」


「冗談ですよ。どうされたのですか」


甘えたように名前を呼んだ弟が可愛くて思わず誂うと膨れ面をしてこちらを睨む。
その表情さえ可愛らしい。
昔は泣き顔ばかり見ていた印象のため、表情をコロコロ変える様子に静蘭は嬉しくなる。


「今夜は七夕だろう?」


「ああ」


隣に立った劉輝の言葉に空を見上げる。


「今夜は曇りですね…」

「そうか」


夜空に広がる曇天。
天の川は見えそうにない。


空を見上げたまま劉輝が話す。

「…私は、1年に1回でも好きな人に会えるなら羨ましいと思っていました」


清苑が流罪になり13年。
何の音沙汰もなく、ある日、静蘭として再会した大好きな兄上。


「七夕の短冊には毎年、清苑兄上に会いたいと書いてきました」


隣の人物が手の甲で涙を拭うのを見て静蘭は反対の手をそっと握りしめた。


「私もですよ…私もずっと、あなたが庭院で1人泣いていないか心配でした」



流罪にされ茶州で過ごしたあの奈落の時期。
清苑にとって、劉輝は生きる理由だった。


いつでも、彼を思えば強くいられた。
傍に行きたくて帰りたくて。

それは叶わないから、弟と眺めた星座に思いを馳せ、流れ星に願いを唱えて過ごしていた。



「もし今、1年に1回しか会えなくなったら静蘭はどうするのだ」


しんみりしていた雰囲気を劉輝が自分の言葉で打開する。


「…そう…ですね。…今の私なら、文を書いたり、1年後にあなたと行きたい場所ややりたい事を考えて過ごすと思いますよ」


「そうか!」


静蘭の返事に劉輝は笑顔を見せる。


「しかし余は、好きな相手に1年振りに会ったのなら、やりたい事など決まってると思うのだが…」


「…今夜はやらないぞ、劉輝」


目を輝かせて指を絡めてきた弟を制止すると、実際にはないはずの犬耳と尻尾がしょんぼり下がったように見えた。


「眠れないのなら子守唄を歌って差し上げますよ主上」


「…静蘭は意地悪なのだー!」


キャンキャン喚く弟を寝台まで送り届ける。


「大人しく寝るから、おやすみのチュウをしてくれ」


「仕方ないですね」



2人がそんな会話をしていた束の間、雲が晴れて天の川が現れた事は知らないのだった。





終わる

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