連花
広い庭院の一角に藤棚がある。
春から初夏にかけて優美な匂いを漂わせてしだれ咲くその様は、ただただ美しかった。
「静蘭」
前を歩く彼が立ち止まり、上を仰いだかと思うと名前を呼び振り向いた。
「どうされましたか、主上」
傍に寄り声を掛けると彼は笑った。
「すごい香りだな。まるで酔いそうなくらいだぞ」
「そうですね」
垂れていた花房を指先で自分の鼻に近付け、香りを嗅ぐその仕草は国王たる優雅さと気品溢れるものだった。
「兄上…」
しかし袖の裾を引き見つめてきたその表情は幼い頃を彷彿とさせる可愛らしさが垣間見える。
「今だけですよ?」
幼い頃のように手を繋いで、酔いそうなほどの甘い匂いの中を2人で歩いた。
紫や白のしだれ咲く花。
小さく可憐な花びらが舞う。
不意にお互い立ち止まり、視線が合うと劉輝が静かに瞼を閉じる。
静蘭は頬に手を滑らせて引き寄せると、優しく口付けた。
匂いと共に、あなたの愛に酔いそうなほどの甘いひととき。
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