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*最初の一歩

「…兄上…」


「ここでは、その呼び方はしないでください、主上」


回廊でお互いに姿を見つけて、柱の陰に身を潜めて一瞬触れるだけの口付け。

唇が離れていく寂しさに相手を呼べば「まだ執務中でしょう?」と窘められてしまった。


「もう1度だけ…」


静蘭の唇が触れて離れる直前、劉輝の両手が相手の頬に伸ばされた。


「…兄上ともっと、チュウしたいのです…」


静蘭も可愛い弟のおねだりを無下には出来ず。


「仕方ないですね…」


困った表情を浮かべたのは僅かで、劉輝の要求に応える。


「…ぁ…ふ」


あの日、庭院で初めて劉輝と唇に接吻を交わして以来、彼は唇に口付けをしたがるようになった。

愛する相手との口付けに不満はもちろんない。


しかし…。


「主上、そろそろ執務にお戻りください…」


長い口付けの後お互いの唇が離れると、劉輝は頬を上気させ瞳を潤ませていた。


「っはぁ…わかっ、た、のだ」


自分の口元を手の甲で拭うと、劉輝はヨタヨタと回廊を歩いていく。
その背中を見送ると、静蘭も自分の職務へ戻るのだが、その心中は複雑だった。


「……今日も生殺しですか、劉輝…」






唇に口付けをした日から早数ヶ月。
劉輝とはいまだ接吻しか交わしていない。

夜這御免状など送らなくとも、相手は毎晩侍官と夜を過ごしていた弟だ。
自然とそういう機会はあるだろうと考えていた。
しかし実際は、あの日以来劉輝は1人で夜を過ごしているし(無論、いまだに侍官と寝ているような事があれば面白くないが)、夜這御免状を送った事もあったが断りの文が来る。
それでも会えば口付けを迫る劉輝に、静蘭は悶々としていた。









「主上、今晩の宿衛ですのでご挨拶に伺いました」


「静蘭か!」


室に訪ねると王として接するいつもの笑顔を向けられた。


「今晩は冷えるようですから、暖かくしてお休みくださいね」


静蘭も武官としての笑顔で言葉を返す。




しかし…。


「冷えるのなら静蘭も室に入るといい」


「ですが私は職務中ですし…」


「大丈夫なのだ、気にするな」


手を引かれて招き入れられた室内は、とても暖かかった。





「このような姿ですまないな、夜着に替えようとしていたところで声がしたので、嬉しくて思わず慌ててしまった」


言われてみれば、主上の格好は衣類はすでに脱ぎ、中の萬壽姿だった。


「主上!そんな姿では風邪をひかれますよ」


静蘭が驚いて近くの上掛けを羽織らせようとすると、劉輝がその手を抑えて抱きついてきた。


「兄上…チュウ、したいのです…」


「主上…ダメです。今は仕事中です」


「そなたの仕事は余の警護なのだろう?一緒にいる方が安全だと思うのだが」


「それはそう…ですが…」


「それに…」


劉輝が自分の股間を静蘭に擦り寄せる。


「主…上?!」


「…そんな、他人行儀な呼び方は嫌です…」


頬を赤らめて俯いている。
劉輝のそこは熱を持ち固くなっていた。






静蘭が戸惑いながら手を伸ばすと、すでに褌は巻かれてなく、湿り気を帯びていた。


「今夜の宿衛が兄上だと…考えたら…兄上との接吻を思い出して…反応してしまったの、です…だから…思わず自分で…」


静蘭はそこまで聞くと劉輝の両手首を掴み、そのまま近くの壁に追いやった。


「っ痛、いです」


劉輝のその言葉を無視して、静蘭が唇に口付ける。いつもの優しい口付けではなく、唇から自分が食べられてしまうのではないかと思うような荒々しいもの。


長い口付けの間、口腔内を轟く舌とお互いの唾液に、劉輝はあっという間に呼吸が苦しくなり、掴まれた手首を振り解こうともがくがビクともしない。


「んっ!…は…ぁ……あに、うえ…」


一瞬離れた隙に、劉輝はズルズルと床に座り込んだ。溜まった唾液を飲み込んで、潤んだ瞳で相手を見上げる。


「劉輝…そんなに期待をしていて今夜もダメなのか?」


「…兄上…」


床に座り込んだ事で萬壽の裾が乱れ、劉輝のそこが露わになっていたが、劉輝の顔の前には、衣類の上からもわかるほど固くなった静蘭のものがあった。








2人で寝台に上がる。
静蘭も劉輝も、すでに裸になっていた。


「兄上…」


劉輝が抱きつくと、優しい口付けが返ってくる。



「触ってもいいですか…?」


劉輝が恐る恐る、静蘭のそこに触れる。
夜を共にした侍官達に今までしてきたように、口や手を使い刺激していく。

今までは、この行為と共に相手の後ろを解してやり挿入していた。
しかし、今夜はどんなに大好きな兄上が相手でも、自分が彼を抱く姿など想像が出来ないし、この期に及んでこれから先の行為に恥ずかしさが募るのだ。



「劉輝…もう、いい」


恥ずかしさのあまり無心で舐めたり咥えたりしていると静蘭が声を掛けた。


いよいよ…。
劉輝の心臓がドクドクした。
もう覚悟は決まっている。
仰向けで寝転ぶと、おもむろに自分の膝を抱えると足を広げた。


「兄上っ」



あまりの展開に静蘭の心中はソワソワしていた。


寝台に上がった後、終始積極的に行為を進められていく。
侍官達と過ごしていたのだから慣れているのもわかるが、今まで散々我慢してきた自分は何だったのか…。
劉輝のあまりにやる気満々なあの受け身…。
何事も順序というものが必要な場合がある。

静蘭は思わずため息が溢れた。







抱えていた膝を降ろさせて、その足の間に体を割り込ませる。

戸惑った様子の相手をよそに、静蘭は劉輝の胸に口を這わせ始めた。

同時に、お互いの中心で重なり合うそれらを握ると擦りあげる。


劉輝はどちらの刺激に感じているのか自分でもわからないまま、ただただ高い声で喘ぐ。


静蘭からの刺激で1度達したが、先程自分で抜く前に実はいつものように精力剤を口にしていた。
でなければ、正気で兄との行為に及ぶなど到底難しいほど緊張してしまうのだ。



静蘭が先走りで濡れた指先で、劉輝の後ろをなぞった。
顔を覗き見れば、頬を赤らめて涙を流していた。


「嫌か?」


「違う、のです…嬉しいのです」


「…そうか」


劉輝の言葉に安心すると、静蘭は優しく解して行った。
最初こそ痛いと言っていたが、指が増えるにつれて甘ったるい声をあげて煽ってくる。


「…あにうえ…もう、」


劉輝が膝を更に自分で引き寄せて懇願する。


静蘭は微かに口角を上げて笑うと自身を挿入させていく。


「っあ、んぁ、あにう、え…大、好き、です」


静蘭の肩に腕を絡めて、必死で伝える。
その姿に静蘭は微笑むと顔を寄せて口付けた。








2人の幸せな甘くて長い夜はまだ続く。
そうして朝まで一緒に過ごしたが、この晩の宿衛不在について、静蘭が咎められる事はもちろんなかった。










終わる



告白話の後日談という名の初夜話…。
この後が甘い衝動に繋がってたりするかも。
敢えて劉輝の声出しは控えてみた(笑)

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