はじまりのキス
茶大保の一件が落ち着き、秀麗と静蘭は後宮を出て邸に帰る事となった。
せっかく13年振りに待ち焦がれた大好きな清苑兄上に再会出来たのに。
寂しさに庭院で膝を抱えていると、背後から優しく声を掛けられた。
振り向けば、そこにいたのは…。
「せい、苑兄上…」
昔のように、庭院で泣いている私を探して見つけてくれた。
「劉輝…またこんな所で泣いていたのか?」
当時と変わらない優しい笑顔で頭を撫でられる。
「せ、せっかく兄上に会えたのに…明日帰られてしまうのでしょう?これからはまた一緒に居られるかと…私はずっと、兄上に王位に就いてほしくて、私は傍でお仕え出来ればそれでいいと…」
鼻をすすりながら立ち上がり、このひと月ずっと考えていた事を伝える。
相手の困った表情を見てしまい俯いていると肩に抱き寄せられた。
「今の私は清苑兄上ではありません。紅家の一家人ですから」
「…それでも、私は兄上がずっと大好きです。帰ってくる日をずっとずっと待っていました」
「ありがとう。私も君が大好きですよ。君がいたから私はここで生きていられた。流罪にされてからも君を忘れる日などなかった…劉輝にまた会うために生きてきたんだ。劉輝が私の1番特別な存在だよ」
「兄上…」
優しく頭をポンポンとされ、劉輝が静蘭の腕に手を添えた。
「私は、あんなに小さくて泣き虫だった劉輝が、こんなに立派に成長していてとても嬉しいですよ」
顔を上げて正面から向かい合うと、視線が同じくらいの高さでぶつかる。
昔はいつも、兄上が屈んで目線を合わせてくれていたのを思い出す。
思わず幼かった頃のように、兄の鼻先に口付けると驚いた表情の後、優しく笑顔を向けられた。
静蘭の腕が劉輝の頭を引き寄せる。
お互いの顔が近付き、唇同士が重なった。
「劉輝、愛してるよ」
あの頃、大人になるまで取っておきなさいと拒まれた唇への接吻を、兄からされた事に劉輝は頬を染め、驚いた瞳で相手を見つめる。
「あっ兄上…その…これ、は…私も兄上の唇に…接吻してもいいと言う事ですか…?」
この人の事だから、気の迷いなどと言う事はないだろう。
それでも信じられなくて。
「もちろんですよ。主上が望むのなら夜伽にも参ります」
その言葉に劉輝の心臓はバクバクした。
いくら小さい頃から大好きな兄上が相手でも、まさかそんな事を願っていい日が来るなんて。
「っ余は、静蘭は抱かないと決めたのだ…」
言って、両手で軽く体を押し返す。
実の兄だと気付きもしなかったあの晩。
握られていた手に安心し、一緒に寝るか?と言うと、とても戸惑った顔をしていた。
「…では私が主上に夜這をしてもいいですか?」
押し返した手の手首を掴まれて下ろされると、再度体を強く抱き締められて。
耳元で聞こえた言葉の意味に劉輝は腰が抜けて、その場に座りこんでしまった。
「主上!大丈夫ですか?」
慌てて膝をつき背中を支えてくれた兄の腕。
「だい、大丈夫なのだ…今日はもう…室に…」
まさか、自分と兄上がそんな関係になる日が訪れるとは。
あの美しい兄に抱かれる自分を想像しただけ気絶しそうなほど恥ずかしい。
静蘭の顔をまともに見る事が出来ないまま、俯いてか細く答える。
「お送りしますよ」
腕を引かれたので、つい顔を上げてしまえば、静蘭の顔が目の前にあって。
またも掠めるだけの口付けをされて。
「…本日、夜這をしても…?」
「…っ、今日はダメ!絶対ダメなのだっ!心臓がバクバクし過ぎて、余は死んでしまうぞ…」
「そうですか、ではまたの機会にしましょう」
そうして残念そうに離れた兄を見上げて劉輝は深呼吸を繰り返す。
そろそろと立ち上がろうとして、先程抜けてしまった腰に力が入らずフラフラとしていると「そんなに期待されているのですか?」なんて、静蘭が意地悪く笑いながら抱え上げた。
「ちがっ、静蘭!下ろすのだー!余は歩けるぞ!」
「主上、危ないですから暴れないでください」
庭院から室までは僅かな距離。
劉輝は仕方なく大人しく抱えられる事にしたのだった。
終わる
告白話を考えていたはずなのに…。
この後日談が?甘い衝動?かもしれないし、違うかもしれないし(笑)
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