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「劉輝の体調は…どうだ?」



翌日、清苑は自室に夕餉を運んできた女官に尋ねた。


昨日はあの後、再び会うのは気が引けた。
あんなに怯えた姿は幼少以来、見ていなかった。
あの頃は自分が彼を守っていたのに、今は自分が怯えられてしまうなんて。


今日は仕事だったが劉輝の姿は見なかった。
まだ調子が優れないのかと心配だった。


しかし女官からの返事は予想外の事だった。


「すっかりお元気なようです。お食事もされてますし、それに…」


若い女官が顔を赤く染めて言いよどむ。

「……あんな劉輝様は初めて見ました」


キャッなどと言いながら室を走り去る。入れ違いに別の食事を運んできた女官も会話が聞こえていたのか理解を示した。


「無理もありません、主上。今まで色恋沙汰の噂もなく、ただただ好きな人がいる、と散々縁談を断り続けていた劉輝様が女官達を口説いているのですから」

熱を出されてから、まるで別人のようですよ。失恋でもされてしまったのでしょうか?



心配そうにそう言うと食事を運び終えた彼女は、失礼いたしましたと出て行った。



劉輝が…女官を口説いている?
どういうつもりなのだろうか。
失恋をした…?
自分との関係を解消したつもりなのだろうか。それとも解消をしたい、のか。
−−−そもそもこの関係が始まったのは…。


女人を抱けず、同性の自分との情事に悦ぶ劉輝を可愛いと、愛しいと。
劉輝との体の関係を繰り返し欲したのは私の方だ。


彼には、異性と結婚し、自分とは違い子供を授かる事も出来るのに。

劉輝の幸せを奪って来たのは私だったのだ。



清苑は箸を置いた。









「劉輝様、お夜食をお持ちしました」

「そうか」

劉輝は自室にいた。
熱も下がり体もすっかり軽い。


「今日はそなたを抱きたい」

「劉輝様ったら」


劉輝が女官を膝の上に招き寄せる。
女官も頬を染めその言葉に応じる。


しばらく見つめ合い顔同士が近付き、まさに接吻をしようとしたその時だった。



コンコンコンッ


劉輝はそのまま扉に向け返事をした。


「劉輝」


扉を開けたのは劉輝の予想通りの人物だった。


「劉輝様、私は戻りますっ」


女官が離れようとするのを腕を引き、そのまま口付ける。


「劉輝!!」


清苑の大きな声に女官も慌てて劉輝を押し返す。



「兄上、何の用ですか?」


視線だけを兄に向け、女官の抵抗を受け入れる。


「話があるんだ」


室内の雰囲気に女官はいそいそと退室した。



劉輝は乱れかけていた襟元を正すと清苑と向き合った。





「私に何のお話ですか」


いつもの、今までの可愛らしい劉輝の声音ではなく、敵意さえ感じるようなピリピリとした強い口調。


「劉輝、すまなかった」


弟からの冷たい態度に、清苑は膝を付き頭を下げた。


「何の事ですか」


しかし劉輝は変わらない。


「約束を守れず、会いに行かなかった」


「兄上もお仕事だったのでしょう?仕方がありませんよ」

世継ぎを作るのも国王の大事なお役目ですから。



劉輝の言葉の端々に刺がある。
しかし、世継ぎは…。


「劉輝。その事だが君にも今まで黙っていた事があるんだ」



清苑は体を起こすと話し始めた。



−−−−私には世継ぎは出来ないんだ。


清苑の言葉に劉輝は驚きの表情を見せた。


「…それは離縁なさるからではないのですか」


劉輝の質問に、妃が彼を訪ねたのだと察した。
しかしなぜ、劉輝は私を拒絶するのか…。



「それ…もあるが、もともと私は子種が出来ない体質なのだと…だから過去に女官達を相手にしたが誰一人授かりはしなかった」


兄の話に過去を思い出す。
昔、自分が勉強を倣っていた頃の兄の周りには毎日、女官達が入り浸っていた。


「…ではなぜ、結婚をされたのですか…」


自分は子供が出来ないとわかりながら、妃を選んだ理由…。


「上の兄上には子供がいます。清苑兄上に世継ぎがなくても構わない。それなのに、無理に結婚をされた理由は……」


劉輝の言葉がだんだん小さくなって行く。


「私との関係を絶ちたかったのでしょう?もっと、早く…そうしてくだされば…」


妃も自分も傷付く事はなかったのに。


「私が兄上の幸せをずっとずっと邪魔していたのですね」


劉輝は俯いた。
清苑はその言葉を否定した。


「それは私の方だ。子供が出来ないのなら、女は抱かないと決め、その替わりに劉輝との関係に快楽を求めてしまった。私が君を利用…しなければ、君は結婚し妻と子供がいたかもしれない。劉輝の幸せを遮っていたのは私だよ…」




お互いがお互いの幸せを奪っていた。



しばらくの沈黙。



先に口を開いたのは劉輝だった。


「……ですが、私は清苑兄上が大好きです…1番、大切です、愛しいです」


利用されていたなんて思いません。



劉輝が真っ直ぐに清苑を見つめる。


その言葉に清苑も床から立ち上がり、劉輝の傍に寄る。


「私も、劉輝が大切だ。誰より愛してる」



その言葉に劉輝の表情に笑顔が浮かんだ。

「嬉しいです、幸せです…」


笑ったかと思うとポロポロと涙を流す。
清苑がそれを指で拭い取り、目尻に口付けをすると劉輝が言った。


「…兄上、私を抱いてください」


清苑は微笑み、ソッとその唇に顔を寄せた。

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