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「劉輝!大丈夫か?!」



食事を運んだらしい女官の慌てた様子に清苑は走った。
息を切らしながら、勢いよく扉を開けた。


室内は日光が入り、明るく照らされていた。
返事がなかった事に不安を覚え、寝台に恐る恐る近寄る。


そこには、清苑が乗せた氷嚢が額からずり落ちたまま劉輝がすやすやと眠っていた。
頬に触れると夜のような体熱感はない事に安心した。


毛布から出ていた手を握り中に入れてやろうとすると、かすかに握り返された。


「…兄、上…?」


眠っていた劉輝が静かに目を開いた。






「劉輝」


清苑は思わず抱き付いた。

「兄上…重たいですよ」


嫌がる素振りはないが、とても弱々しい。


「劉輝、昨夜は」

謝ろうと口を開いた。
その瞬間。


「嫌!いやですっ!聞きたくありません…」


劉輝は力強く目を瞑り、両耳を塞ぐと清苑が座るのとは反対に体を向けた。


それ程の拒絶をされるのは初めてだった。
清苑がしばらく待っても一向にこちらを向かない。


「…また、来る。すまなかった…」


そうして劉輝の頭を撫でると室を後にした。



「兄上は…私が嫌いになったのです…」


清苑が去った室内。
寝台の上で上半身だけ起こし座位をとる。
頭に巡るのは昨夜の事。



昨夜は初めて、約束の時刻に兄が訪ねて来なかった。
賊の侵入でもあったのか?と不安になったが、城内は静かだった。
珍しく終わらない仕事があったのだろう。
そう思い、自室でいつものように待っていた。


どれ程経ったのか、外は雨が降り出していた。
廊下には微かな灯りしかないため、いつもより暗くて歩きにくいのかもしれない。
兄の室に迎えに行く途中で会えるだろうと、室を出た。


夜の雨は空気も普段よりヒンヤリとさせていた。



途中で会う事もなく、兄の室の前に辿り着いてしまった。

僅かに中から灯が漏れている。
まだ仕事をしているのかと室に寄り扉を叩こうとした時だった。


『清苑様、いやっ!なぜそんな…』


劉輝も知っている声だった。
雨音の中、聞こえてきたのは兄と妃の甘い声。



劉輝は静かに涙を流していた。
自分がどうやって自室に戻ったのか記憶にないが、そのままフラフラと庭院に降り立ち、しばらく呆然としていたのは覚えている。
こうして庭院で泣いていると、兄上はいつも探しにきてくれる。
しかし今日は…いつまで待っても兄は来ないのだ。
兄には兄の人生があるのだから。
気付けば寝台の上で眠っていた。
朝方目が覚めると体は怠く、額には氷嚢が乗せられていた。
雨でびしょ濡れだったが着替える気にもなれず、そのままだった衣服も着せ替えられていた。


きっと、兄上が世話をしてくれたのだと想像はついたが、考えれば考えるほど胸が痛んで涙が溢れた。



そうして再度眠ってしまったところ、目を覚ますと会いたくて会いたくない兄がそこにいた。
彼は、自分に何を告げるつもりだろうか。
今度は不安と緊張で頭痛がしてきた。
どちらにせよ、今日は休日。
女官が運んだのだろう食事も箸を付ける気分にはならなかった。
何も考えずに休む事にする。






コン、コン、コン

そうしてまた毛布を被り直そうとしていたところ、扉を叩く音がした。

兄であるなら今は会いたくない。
再度叩かれたので仕方なく劉輝は返事をした。



「劉輝様…申し訳ありませんでした」


扉を開けるとそこにいたのは妃だった。
妃は劉輝と視線が合うなり跪拝をし深々と頭を下げ、そう言った。


彼女は昨夜、劉輝が訪ねた事は知らない。
なぜ、謝るのか。



疑問と不安を感じながらも、彼女を室内に招き入れた。


妃に椅子を勧めると素直に腰掛けたが、再度深く頭を下げ、そのまま膝の上で泣き出してしまった。


「な、なぜ泣かれるのです。どうされたのですか義姉上」

劉輝自身、本当は妃に会うのも怖かった。
愛しい兄を取られてしまったから。


−−−−−何を、言われるのだろう。










−−−−−−−


…なかなか終わらないね。
どーしてこうなった。
年内に終わらせたい。

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