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縁談の姿絵の書簡は、国中から届いた。


紅家の直系長姫や貴陽一の妓楼の妓女なども候補に挙がった。



『兄上は…結婚されるのですね…』


執務室に積み重なった書簡を見て劉輝が寂しそうに漏らした。

国王である以上、妃を娶り世継ぎを残さなければならない。
残念ながら遊んで抱いた女官達が孕む事はなかったため、やはり自分には子種が出来ないらしい。

先に結婚した兄上は、一男一女に恵まれていた。



『劉輝も継承者なのだから結婚して妻と子を持てばいい』

そう言うと、父の代のように内乱や戦争が起きてしまうかもしれない…と彼は俯いた。

『それに私は、兄上が大好きですから』

はにかみながら顔を上げたが、すぐに泣きそうな表情をしていた。

劉輝を好きなのは自分も同じ。

劉輝の悲しそうな顔は見たくない。

それに所詮、自分は子種が出来ない体、そんな相手との行為自体、相手が虚しくなるだけだろう。
快楽を求めるなら私には愛しい劉輝がいる。
だから決して、妃とは床を共にはしないと決めた。



たくさんの姿絵を見ても特に惹かれる相手はいなかった。
これで考えるのは終わりにしようと開いた姿絵が、彼女だった。
劉輝に似た髪色の。

彼女ならば、傍にいる事に安心出来るかもしれない。
劉輝のように可愛らしいと思う事が出来るかもしれない。
例え夫婦として、体の関係を持たなくても。
自分の子供を、持たなくても。



そして私は彼女を妃に選んでしまったのだ。


私を好きだと言う劉輝の気持ちなど考えず、自分の矜持と保身のために。






婚儀の晩、いわゆる初夜は、幸い彼女が慣れない後宮でのしきたりや、大勢の来賓などに疲れてしまい何事もなく終わった。


以降、数ヶ月。
彼女とは仕事が忙しい素振りを見せ、そういう流れにならないように努めてきたのだ。


そして、昨夜の出来事が起きてしまった。






「すまなかった…」


話し終えると清苑は妃に対し深く頭を下げた。

妃は落ち着いた様子で、静かに首を振る。


「いいえ、元より清苑様と劉輝様の間に、私が入る隙間はなかったのです。清苑様は劉輝様を愛し、劉輝様は清苑様を愛されていたのですから」


やはり、離縁いたしましょう。

清苑がハッとして顔を上げる。


改めてそう告げた彼女の瞳は力強く真っ直ぐに清苑に向けられていた。



国王の離縁など異例の事。
先代王は六人の姜妃を娶り、それぞれ公子を産ませた。
離縁せずとも後宮に留まる道もある。


彼女は言葉を続ける。


「私は、清苑様をお慕いしていたのですよ?ひとときも振り向いてくださらない方の傍に留まるとお思いですか?」


妃は少し意地悪そうに笑う。


「それに先ほど、母から文が届いたのです」


父の体調が優れないと…。




婚儀の際に会った彼女の父上にそんな様子は見受けられなかったが。



「心配なので明日の朝には出立しようと思います」



妃の決断に、清苑は「そうか」と答えるしか出来なかった。


自分が出さねばならない結論を、彼女が選択肢を選んでくれた。


「私の都合で傷付けてしまい、本当にすまなかった…帰路に必要な馬車と父上の療養代…手切れ金は、それぞれ用意させてもらう…」


謝罪のため頭を下げたが、自分が情けなくて顔を上げる事が出来ない。
清苑の様子を理解したのか、妃は小さくお辞儀を返すと「辿り着きましたら、文を送ります」と執務室を出て行った。


彼女が出て行ってから数刻、清苑はその場を動く事が出来なかった。

彼女を好きでなかったわけではない。
ただ、劉輝のように愛しいとは思わなかっただけ。
体を重ねなくとも、子供を持たなくても、幸せにしてあげたいと思ったのに。
今となっては後の祭り。



胸の奥が少し痛んだ気がした。




「主上!主上、劉輝様がっ」


執務室に駆け込んできた臣下の言葉に、清苑は現実に引き戻された。

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