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執務室で、朝を迎えた。
自分が眠れていたのかどうかもわからない。



ボーッとする頭で昨夜の出来事を思い返す。

昨夜は、劉輝と会う約束をしていた。
部屋を出たところで妃から呼び止められ…抱かないと決めていた彼女と行為に至ってしまった。
その後に訪ねた劉輝のあの様子は…私が彼女を抱いた事に気付いたのだろう。
おそらく、文もなく約束の時刻に遅れている私を心配して、室まで訪ねて来ていたのだろう…。



劉輝は熱を出していた事を思い出し、慌てて椅子から立ち上がる。
自分が、会いに行っていいのだろうか。
清苑は自問自答していた。



コン、コン、コン



執務室の扉が控えめに叩かれた。
劉輝?…いや、この叩き方をする人物に心当たりはない。
清苑は訝しげに返事をした。


「失礼いたします」


執務室を訪ねて来たのは妃だった。








「おはようございます、清苑様。…お茶は、いかがですか」


昨夜の事を意識しているのか緊張した声音で、微かに手が震えている。

「私が淹れるよ」

清苑は飲むとも飲まないとも返事をしなかったが、妃の様子に思わず声をかけた。


彼女が運んで来た2客の茶器にそれぞれお茶を注ぐと、清苑は妃の座った椅子の前の卓子に差し出した。


それを手に取り一口飲むと、妃は深呼吸をした。



「清苑様…昨夜は…私は…あのような事を、大変申し訳ありませんでした」


妃はゆっくりと静かに、けれどはっきりとそう言った。


「私は、劉輝様に嫉妬していたのだと思います…私と同じような色素の薄い髪。あなたがいつも褒めて下さるこの髪は、劉輝様とよく似ています」


あなたはずっと、私を通して劉輝様を見ていました。



あなた達の関係を知ってしまったのは本当に偶然だったけれど、不安に感じていたあなたの気持ちには確信が持てた。


「離縁、いたしましょう」


妃の申し出に清苑は首を振る。


「あなたに黙っていた事がある。劉輝の事以外に…私自身について」


清苑が話し出した内容は、即位する以前から自分は子種が出来ない体質だと言われていた事、これは仙洞省、自分の側近共に極僅かにしか伝えていない事実だった。心配をかけまいと、もちろん劉輝にも告げてはいない事。そのため、即位した暁には、世継ぎは兄上に子供が出来ればその子をと考えていた。劉輝との関係は…妃の姿絵を見るずっと以前から始まっていた。

公子の頃から、公子一優秀で賢いと、次期国王と言われてきた自分が、まさか世継ぎを残せない体質だとは。
公子としてではなく、男としての矜持が耐えられなかった。



そんな頃、まだ少年らしさの残る末弟の劉輝が思春期らしい相談をしてきた。


『あの、兄上…恥ずかしいのですが、その…兄上は大人の、男女の営みは経験されているのですか?』


当時、女官達を毎晩のようにとっかえひっかえし夜伽をさせていた。
自分自身が一番、子種が出来ないと言う事実を受け入れたくなかった。


そのため、劉輝の質問にも是と答えたところ、頬を紅潮させながらこう言った。

『わた、私も勉強をしたいのです』
と。
では、夜に誰かを遣わそうと言うと彼は続けた。

『いえ、えっと…算術も剣術も兄上から教わりました。兄上の教え方は丁寧で分かりやすいのです!…だから、』

−−−こいつは何を言っているのだろう。



男女の営みを知りたいと言いながら、同性の私から何を教わるつもりなのだ。



呆気に取られた顔の私に『…ダメですか?』と首を傾げて尋ねてくるその様は、親とはぐれて不安げな子犬のようだった。

そのお願いを聞いてしまったのが、すべての始まり…。

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