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コンコンコンッ



想い人の室の前に辿り着き、清苑は焦る気持ちを抑えながら静かに扉を叩いた。



室内からは返事がなく、いつも幽かに見える灯りも消えている。

待ちくたびれて眠ってしまったのだろうか。


寝顔だけでも一目見ようと、扉を開け中に足を踏み入れた。
シン…と静まり返った室内は、雨の匂いが立ち込め、燭台をいつ消したのか、とても冷え冷えとしている。



寝台に歩み寄ると会いたかったあの子の長い髪が……びしょ濡れで枕元に垂れていた。



−−−悪い予感がした。
驚いて毛布を捲ると劉輝は髪だけでなく、全身をびしょ濡れにし体を小さく丸めて震え、押し殺すような嗚咽を漏らしていた。


「劉輝!」


肩を揺すり、声をかけるが返事がない。
背中から抱き締めると、ビクリとしたのがわかった。


「あに、うえっ、どこに行くのですか…っ」


「どこにも行かないよ」


「私が……っきら、になったのですか」


「!」


清苑は悪い予感が的中した事に内心で舌打ちをした。


幼い子供のように泣き声で呼吸の乱れる劉輝を落ち着かせるため頭を撫でている内に、腕の中から聞こえていた嗚咽はおさまり、泣き疲れたのか寝息が聞こえてきた。

箪笥から布と着替えを持って来て清苑は濡れた体を拭いてやると、劉輝を仰向けに寝かせた。
その寝顔は、何度も見た事のある表情なのに、瞼は腫れ涙の痕が残り、とても痛々しかった。


目を拭ってやろうと手を伸ばすと、清苑は劉輝の異変に気付いた。


顔が熱い。


雨に濡れ、風邪をひいたのだろう。
清苑は一度傍を離れると、氷嚢を準備して戻ってきた。

その冷たさに劉輝は身動ぎしたが起きる気配はない。


うわ言のように「兄上、ごめんなさい」「どこにも行かないで」を繰り返していた。


自分の浅はかな考えが、弟と妃の2人を傷付けてしまった。


清苑は深いため息を吐いた。
けじめを着けなければならない時が来た。


「劉輝、すまない」


そう囁くと、清苑は室から出て行った。

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