銀色ワンコ/椎羅さんへ

仁王はとにかく夏に弱い。

もともと少食なくせに、暑くなるとその量は更に減る。



しかし何より、日射しが苦手だと知った時は心底呆れてしまった。






あまり関わりのなかった1年の頃、仁王は夏が近付くにつれて部活を休んだり、途中抜け出したりしては怒られていた。


大会も近付く中、そんな態度の仁王は浮いていて正直オレも嫌いだった。





2年になり、実力はある為レギュラー入りするようになっても仁王の態度は変わらなかった。


練習を抜け出した仁王を見かけて、休憩に入ると探しに向かった。


仁王は案外わかりやすい場所にいて、木陰の下で目を閉じて寝転がっていた。


「おい」


「…なんじゃ、丸井か」


声をかけるとあっさりと目を開きオレを見る。


「…お前やる気ねえなら部活来んなよ」


「……」


「オレらだって必死に練習してレギュラー入り出来るようになったっつうのにさ、サボってばっかなお前と一緒にされたくないんだわ」


暑さもあって、イライラした気持ちをぶつけても仁王は何も言わない。


ますますイライラする。


「正直、オレらの士気も下がるしさ。もう部活辞めろよ」


「…すまん」


起き上がった仁王は一言そう言った。


「いや、謝ってほしいんじゃないんだけど」


「でも、テニスは辞めん」


「は?」


「俺、日焼けするとやけどみたくなるし、暑いとぶっ倒れるんよ」


「…」


「で、時々こうやって自主休憩取ってるんじゃ」


「……お前そんなで何でテニス部入ったんだよ」


「そりゃテニス好きじゃけぇ、辞めたくないぜよ」


聞けばテニススクールが室内コートだったらしい仁王の言い分がわからない訳ではないが、こんな状態で大会を乗り切れるのだろうか。


「つうか、何で自主休憩なんだよ、サボりだろぃ。誰かに言ってから行けよ」


部活中に倒れられてはみんな困る。
それでも、突然いなくなっていても困る訳で。


「すまんのぅ。じゃあこれからは丸井に声かけるなり」


「…は?」


顧問や先輩、それか幸村くんあたりに…そう言おうとしたのに、そういやこいつは浮いている。

周りにそんな事情を言った時点で疎まれそうだ。

もちろんオレだって半信半疑ではあるのだけど。


しかし何故だかほっとけなくて、呆れながらも頷いていた。









「…ブンちゃん、休憩行きたい」


今年は例年以上に暑い夏となるらしい。

梅雨が明け、7月もまだ七夕を過ぎたばかりだと言うのに各地で猛暑が続いている。

気にしていれば案の定、仁王が声をかけてきた。


「…ったく、またかよ」


「すまん」


幸村くんに声をかけると「俺も病み上がりなんだけどな」なんて言いながら送り出してくれた。




「お前、大会大丈夫かよ?」


ふらつく身体を支えながら、木陰に辿り着くと腰を下ろして様子を伺う。


「ブン太がチューしてくれたら頑張れるぜよ」


オレの膝を枕にして見上げてきた顔は、確かに赤く火照ってはいるものの、言ってる内容はペテン師そのもの。


「…お前はまたそうゆう事を」


「最近暑くて食欲ないけん、ブン太からエネルギー分けてもらわんと」


「今度焼肉弁当作ってくるからちゃんと食え!」


「今腹減って動けん〜…」


好きな食べ物で誤魔化されないのがオレと違って厄介なところだ。


気付けば、いつの間にかオレの方が飼い馴らされてしまった。


顔を離すと仁王の火照りが移ったみたいに顔が熱くなって、見上げる仁王がからかってくる。


「しっかし、デカイ犬に懐かれたもんだな」


「ん?」


「まあメシ代かかんないけど」


嫌味を込めて言ったはずなのに、当の仁王は嬉しそうに笑う。


「冷暖房とテニスとブン太完備なら問題ないぜよ」


頬に触れた手が心地いいと思うあたり、オレも暑さで頭が沸いてる気がした。









おわり








椎羅さん、お誕生日おめでとうございます〜!
ニオブンとのリクエスト頂いたので、二人が接近するきっかけを考えてみました。

頼り頼られるうちに好きになった二人。




こんなお話で宜しければ貰ってやって下さい(^^;

椎羅さんのみお持ち帰り可です。


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