二人の時間/るくさんへ
「仁王ー、ドーナツ屋寄ってこうぜ」
「おん」
俺の可愛い彼女…もとい彼氏…となると立場が違うので、いわゆる『恋人』はとにかく食欲旺盛だ。
特に甘い物は大好物である。
「お、新しいの出てんじゃん♪」
見るからに甘そうな、チョコでコーティングされたドーナツを選んでは、目を輝かせながら次々とトレーに載せていく。
甘い物を好まない俺としては、その量とこの甘い匂いの店内にいるだけで腹いっぱいになりそうだ。
しかし、ブン太が寄りたがるこのドーナツ屋はコーヒーのおかわりが自由な為、2人で寄るには都合が良く思っている。
「仁王は今日も食わねえの?」
「腹減っとらんし、別にええよ」
「そ?」
『こちら店内でお召し上がりでしょうか』
お決まりな店員の言葉にもブン太は「あ、はい。プレート同じでいいです」なんて嬉しそうに返事をして会計を済ませた。
男2人が小さいテーブルを挟んで向かい合って座って。
周りから見たら不思議な光景なのではないだろうか。
そう思う反面、目の前で嬉しそうにモグモグとドーナツを頬張るブン太はとても可愛い。
「食う?」
「いや、いい」
そんなブン太と対象的に黙々とコーヒーをすする俺。
プレートの半分ほど食べていくらか満たされたのか、ブン太が指先に付いたチョコを舐めながらこちらの様子を伺う。
(…口元にもついとるぜよ)
拭ってやりたい衝動に駆られながらも、グッと堪えて自分の顔で指し示す。
「何?」
「チョコ、ここついとる」
「うわ、マジで」
好きな物を食べて嬉しそうなブン太を眺めるのは楽しい。
しかし、ブン太はいつも食べる事に夢中で会話らしい会話もないまま、ただコーヒーをすするだけの俺と時々おかわりを注ぎに来てくれる店員のお姉さんと何とも気まずいこの空間。
気付けばそんな風に何時間も滞在しているのはよくある事だ。
「今日もドーナツ食ってこうぜ」
「…おん」
トレーに載せて会計に進み、ブン太はニコニコ笑っていて。
「…持ち帰りで」
「は?」
「持ち帰りでお願いします」
いつものように店内でと答えようとしたブン太を遮った。
驚くブン太とお姉さんを押し切り箱に詰めてもらうと、足早に店を出ればブン太は訳もわからず不満そうだがついてきた。
「どこ行くんだよ」
「…」
「なあ仁王!何で怒ってんの?」
「…怒ってない」
「じゃあどこ行くんだよ」
「俺んちでええじゃろ」
「…」
怒ってなんかない。
ただブン太と一緒にいたいだけだ。
一緒に笑って、手を繋いで、時々キスをして。
そんな時間を過ごしたい。
だから。
「何で持ち帰りにしたんだよ」
部屋に着くなりブン太は不満を漏らした。
「食えりゃどこでも同じなり」
「お前食わねえくせに」
「食ってるブン太見てるだけで腹いっぱいになるぜよ」
「……オレが大食いみたいに言うな!」
「そろそろ自覚持ちんしゃい」
「……」
こんな言い合いをしたいわけじゃない。
「…俺は、ブン太が食う事に手一杯で俺ん事見ない時間が嫌なんじゃ」
「バッカじゃねえの」
「…」
正直に話せばブン太は盛大に呆れたため息をこぼす。
「オレは、甘いの嫌いなお前でも、ずっと一緒にいたいからコーヒーおかわり出来るあの店選んでたんだよ」
「ブン太…」
「仁王が甘いの苦手なの知ってるけど、お前がオレの前でコーヒー飲みながら一緒にいてくれるあの時間が好きなんだよ」
ブン太がそんな事を考えて選んでいたなんて思いもしなかった。
「けど俺はブン太の口元についたチョコ拭ってやりたいんじゃ」
「んな、いつもつけてねえよアホ」
恥ずかしそうに怒るブン太が可愛くて抱き締めるとおとなしく腕を回された。
「たまには、持ち帰りにしてこんな風に一緒にいたいんよ」
「仕方ねえなー。持ち帰りの時は仁王の奢りな」
腕の中でクスクス笑うブン太が愛しくて、例え財布が寂しくなろうとブン太と賑やかに過ごせるならそれでもいいと思う俺がいた。
おわり
お誕生日おめでとうございます!
いつもツイッターでお世話になってます。
リクエストを伺ったのに何だか違う内容になってしまった感じが…。
ブン太は仁王が思う以上に仁王の事考えてるよーと言った雰囲気のニオブンになりました。
これからもツイッターなどでシクヨロお願いします。
素敵な1年になりますように。
るくさんのみお持ち帰り可です。
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