初めの一歩/るくさんへ
今回のクラス替えで、初めて仁王と同じクラスになった。
仁王とは1年の頃から部活で面識はあったけど部活以外での姿はよく知らない。
まだ席替えをしてない為、出席番号順に席に着けば二つ前の席が仁王だ。
予鈴の直前、ちらりと振り向いたかと思えば、オレと視線が合うなり「オヤスミ」なんて口パクして机に伏せる。
オレだって朝練でクタクタだっつうの。
仁王はサボったり寝てる事もあるけど、数学の時間はわりとちゃんと受けてる事が多い。
オレなんか、午後の授業は昼飯も済んでお腹いっぱいだし、公式の意味がわからなくて机に伏せたくなるのに。
今日だって自習だからそのまま寝れると踏んだのに、案の定プリントの提出がある為解かなければならない。
改めて黒板に視線を向けると目に写る銀の髪。
左手がサラサラと動いてるのが見える。
(…答え教えろよ、アホ)
八つ当たりのように念じて、結局机に伏せた。
―トントン。
机を軽く叩く音に顔を上げると目の前に仁王がいた。
「!?」
「全然終わってないんか、お前さん…」
クラスと氏名しか記入されてないプリントに、仁王が呆れた声を出す。
「え、つうか授業は…?」
「とっくに終わったじゃろ。HR中も寝てたんか」
周りを見れば帰り支度をするクラスメイトや、すでに下校したのか大半がいなくなっていた。
ニヤニヤ笑う仁王に腹が立つが、プリントが終わってない事を思い出してそれどころではなくなった。
「っあ!プリント!見せろよ!」
「…いや意味わからんし」
「お前解いてたじゃん」
「終わったけど、丸井に見せる意味がちょっと…」
ジャッカルなら何も言わなくても「見るか?」って出すのに。
こいつ使えねえ。
「…そう拗ねなさんな。つうか、まず人に頼む物言いじゃないし」
顔に出たのがため息を盛らしながら仁王がプリントをちらつかせる。
「…仁王、プリント見せて」
「…うーん」
「仁王くん、プリント写させて」
「最初よりひどい、人として」
「いいんだよ」
口ではそう言うけど、机にプリントを広げた仁王は意外と話のわかる奴らしい。
1年で同じクラスだった比呂士なら、今ごろ小言が始まっている頃かもしれない。
「お前案外いい奴なのな」
「ん?」
記入する手を動かしながら思った事を伝える。
「今まで部活でしかあんま話した事なかったからよくわかってなかったけどよ」
「そう?」
「うん」
仁王はオレの言った事が面白かったのかちょっと笑った。
澄ました奴かと思えばそうでもないようだ。
「プリント、サンキューな」
全て写し終えて礼を言うと仁王がニヤリと笑う。
「写していいとは誰も言ってないぜよ」
「は…?」
「つまりこれはカンニングと同じような」
「わ、ちょっ!待った!」
教室に残ってるのはオレと仁王だけ。
なのに、声を張り上げようとする仁王を慌てて止める。
カンニングなんて人聞きの悪い。
「何だよ、見せてくれたんじゃねえのかよ」
「見せただけじゃ」
屁理屈を言うコイツに腹が立つ。
何なんだよ、ダメなら最初からそう言いやがれ。
イライラしてポケットに手を伸ばすが目的の物が見つからない。
そういえば昼飯の後に食べたのがラストだった事を思い出した。
「チッ…」
「丸井くんこわーい」
イライラして舌打ちすればますますイラつく仁王の言動。
ったく!
「ガムならあるぜよ」
仁王がそう言って差し出したチューインガム。
…ミント味は舌がヒリヒリするから苦手だ。
けど、こいつにそんな事言ったら笑われそうで、覚悟を決めると指を伸ばした。
―パチンッ!
「いてっ…」
「ぱっちんガムならあるぜよ」
引っ掛かった後にバラしてんじゃねえよ!
もう怒る気にもならなくてため息を吐く。
「怒らんの?」
「怒られてえの?」
「まさか」
こいつ何なんだよもう!
部活中もそれなりにわけわかんないけど、普段からこうなわけ?
いたずらが成功して楽しそうに笑う仁王は、いつもの澄ました笑い方じゃなくて年相応に見えて親近感が湧く。
「…仁王ってさ、意外とおもしろい奴なのな」
今まで見た事ない一面が見れて、こいつと同じクラスになった事を楽しみだと思う自分がいた。
おわり
るくさん!
お誕生日おめでとうございますー!
日記に書かれてた、ニヤニヤするようなニオブンを目指すつもりが…どこをどう見てもクラスメイトに成り立てな2人になってしまってごめんなさい(^o^;
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