秘密のホッカイロ

「仁王くん、帰りましょう」

「おう、今行く。じゃーの丸井」

「おー、また来年な」



昇降口で靴を履き替えている柳生に、先に済ませた仁王が何かを飛ばした。


「踵を踏んではダメですよ仁王くん。それは何ですか」

「ん?ああ、通知表」

「…成績表を紙飛行機にするのはやめなさい」

「ええじゃろ別に俺のなんやし。それに数学以外アヒルさんと耳が並んどるだけじゃ」


足元に着地したそれを拾い上げると受け取った仁王は全く気にもせず飄々と述べた。


「……それはもっと恥じらうべきでは」

「普段恥じらっとるやろ、柳生、明るいと恥ずかしか、電気消して?ってな」


何を言い出したのかと呆れながらも、隣を歩く仁王の右手を取ると、繋いだまま自分のコートの左ポケットに入れて。

「ん?柳生は手あったかいなぁ」

その途端、顔を綻ばせた彼は可愛らしい。

「仁王くんが冷たいんですよ」

「俺は心があったかいんよ」

「詐欺師が何を言いますか。私こそ心が温かいからですよ」

「……」

「ちょっと!黙らないでください」

「え、ああスマン。よう聞こえんかったんじゃ」

「……仁王くん、」

「んー?」

「クリスマスにはイルミネーションでも見に出かけますか?」

「んー…いや、柳生んちでずっと一緒におりたい」

「そうですか」

ポケットの中で繋いだ左手に指が絡んだ。

「おん。誰にも邪魔されんで、この温かい手に触れてたい」

「そうですね」

そう言って強く握り返した冷たかったはずの彼の右手は、とても温かかった。






おわり

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