82回目のプロポーズ

『僕は死にません、あなたが好きだから』



昔流行ったらしいトレンディドラマの特集番組が耳に入ってきた。

今は夕食の時間。


を1時間程過ぎた時間。
部活を引退したからと言って受験生が暇になるわけではない。
日頃より授業中に理解は出来ているものの、塾に通い始めて1ヶ月程が経過した。




母親は自分が若い頃に放送されていたそのドラマが懐かしいようで、キッチン横のリビングからは妹との楽しそうな声が聞こえる。



「ごちそうさまでした」
箸を揃え手を合わせる。
食べ終えた食器を流しまで運び、洗い終えると部屋に戻った。






僕は死にません、あなたが好きだから。



部屋に戻り、塾の課題や授業の予習復習をしていると、ふと先程のドラマの台詞が頭を過った。



死なない、なんてそんな事あるはずがない。
ましてや好きな人がいるからなんて。

仮にそんな事があるのなら、戦時中亡くなる人は少なかったに違いない。
ましてや心中なんて愛する者同士なのだから命を断つなんてあり得ない。

命は儚いからこそ。愛する者の為に輝くものなのではないのだろうか。









課題を終え入浴を済ませ、さあ寝ようと思った時に携帯が着信を知らせた。

時刻を見ると、午前零時を間もなく迎える時間。

こんな時間に…と思いながらも、相手を確認すると自然と顔が綻んだのが自分でもわかった。



「もしもし」


「柳生、まだ起きてたんか?珍しいな」


「今起こされたんですよ、仁王くんからの電話で。あなたこそ、自分から電話なんて滅多にかけてこないじゃないですか」


もしかしたら本当は寝付けなかったのかもしれない。
いつもならもっと早くに床に就いて携帯の電源も切っているのに。

部活を引退して学業に専念し始めて、気付けば恋人と過ごす時間が減ってしまっていた。

だからきっと、あの台詞が頭を離れなかったのかもしれない。
もしも私の身に、予想もしなかった不慮の事態が起きて、仁王くんに突然悲しみを与える事になったら…。
そんな事は私が耐えられない。



「悪いな、今日は特別じゃけ許して。…誕生日おめでとさん、柳生」


「…ありがとうございます。ですが折角なら名字ではなく下の名前を呼んで頂きかったですね」


「…あー、…人の厚意にケチ付けるんやめんしゃい、そんな言うとプレゼントやらんからな!」


普段名前を呼んでくれない仁王くんに今日は名前を呼んでもらいたくて。
だって今日は私が、柳生家に比呂士が産まれた日なのだから。

きっと今は顔を赤くして焦っているのでしょう。


「申し訳ありません。プレゼント楽しみにしていますね。…ところで仁王くん、」


「ん?」


「私もあなたもいつしか死と言う永遠の別れがきます」


「何言うて」

「ですが、だからこそ私は、精一杯あなたを愛し大切にします」

「柳生…?」

「これからもずっと、一緒にいて下さい」


好きだからこそ、一緒に生きましょう。


「…突然、何言うんかと思った。…産まれて来てくれて、俺と出会って、俺ん事好きんなってくれて…ありがとな、比呂士…」


「仁王くん…私もあなたと出会えて、想いが通じて、とても幸せです」


「…あー、柳生が真面目な事言い出したから寝れんくなったなり」


「私はどんな時でも誠心誠意真面目ですよ!」


「はっ、ムッツリ鬼畜なエセ紳士がよく言うな」


「聞き捨てなりませんね…」


「ホントの事なり。……あっ、と…プレゼント、は、帰りに寄った時に渡す………とりあえず、まあ…寝るわ」


「寝れないんじゃないんですか?」


「…うっさいのぅ、眠くなったんじゃ」


「…放課後楽しみにしています。おやすみなさい、また…夢で会いましょう」


「…ん、じゃあの」






僕は死にます、あなたが好きだけど。
だからこそ、その時が来るまで一緒にいて下さい。




夢で会うより、君と過ごす時間が1番の幸せ。







おわり

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