狐の嫁入り

年が明けて早数週間。
初春の暖かい晴れた日に小雨が降っていた。


「あ、」


「どしたん?」


狐の嫁入りだ、そう思った時に隣から声を掛けてきたはずの仁王の姿が霞んだ。


「仁王?」


「ここにおるよ」


手を伸ばして名前も呼んで。

「ブン太、こっちじゃ」


返事はあるのに姿は薄らいで掴めない。


追い掛けても追い掛けても追い付かなくて。


「俺はこっちじゃき」


前にいると思っていたのに後ろから名前を呼ばれて。

自分がどこにいるのかさえわからなくなった。


「仁王っ!」


そうして姿が消えた相手の名前を呼ぶと、手に温かい感触がした。


「なんじゃい、さっきから」

その声にハッとする。


「さっきから俺の名前呼びながらうなされとったけどどしたん?」


オレの手を掴んで、心配そうに声を掛けたのも今まさに姿を消した仁王だ。


「仁王…?」


「柳生にでも見えるか?今日は入れ替わっとらんよ。一緒に帰ってきたじゃろ」


そうだ、今日は仁王と一緒に下校して、家族が出払ってると言う仁王の家で抱き合って。
気付けば眠っていたもののオレはどうやら夢を見たらしい。


「…仁王に化かされる夢を見てた」


「何じゃそりゃ。人を狐や狸みたいに」


「実際、ペテン師なんだから同じようなもんだろぃ」


呆れたように笑う仁王に手を伸ばして。
その存在を確かめるように抱き寄せた。








おわり




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