Mの悲劇〜2014ジャッカル誕生日〜

「…すまん」


「そう哀しそうな顔するなよ、俺はお前に祝ってもらえて嬉しいぜ」


そう言ってジャッカルが仁王を抱き締めた。
仁王もそれまでの沈んだ表情から嬉しそうに笑顔を見せた。



しかしこれがめでたくないのはどうしてだろうか―――。









「11月3日予定ある?」


仁王からそう聞かれたのは1週間ぐらい前の事だった。


「3日…って祝日だっけ?空いてるぜ」


「あんな、ジャッカルの誕生日会やろうと思うんやけど、ブン太手伝ってくれんか」


「あー、そっか!あいつ誕生日じゃん」


思い出すと仁王からの相談に快諾した。






なんでも、仁王はブラジル流誕生日会を演出したいらしいのだが、まあ日本じゃ隣近所の家に協力してもらって外壁や通路を派手に、なんてなかなか無理だけど。
部員達だけでも集めて盛大にお祝いしてあげたいと言うのだから、いい奴じゃないか。



当日の料理はオレが作る事になり、ちょっとした飾り付けはみんなに協力してもらう事で話はまとまった。












「…ありえん」


…はずだったのだが。


「つうか、お前何て説明したんだよ。誰も明日の事理解してねえじゃんかよ」


前日になり改めて確認の連絡を入れたところ、誰も明日のジャッカル誕生日会の話を認知していなかったのだ。


しかも予定がわかったところで、幸村くんは既に家族旅行に出かけてるし、真田は甥っ子の試合応援だとか、柳は乾と昔のテニススクールに行く約束があったとかで無理だし、比呂士は妹のピアノの発表会、赤也は他校に練習試合に行ってるし…。


「ジャッカルの誕生日祝うから手伝って」


「……それ、本当に手伝い頼まれたとしか思わねえよ」


「……」


「とりあえず、明日は予定通りオレが料理作ってジャッカルん家行くわ」


こうなったらオレと仁王で祝ってやろうぜ!

そう言った時の仁王の困ったような顔の意味をオレはまだ知らなかった。









「……ありえんじゃろ」


「悪い…」


ジャッカル誕生日当日。


オレは数日前のハロウィンに貰った菓子を食べ過ぎたのか、朝から体調が優れず。

仁王に連絡すると案の定、怒りながら呆れたような返事が来た。


仁王自身はすでにジャッカルの部屋の飾り付けを済ませたようで、今は飲み物の買い出しに出ていたらしい。


ジャッカルにはみんなが来れない事はもう伝えたとかで、それでも人の良いあいつは仕方ねえよって笑って済ませてるのだろう。











「…ブン太もな、腹壊して来れないらしい」


「ああ、さっきメール来た」


「どうせハロウィンの菓子でも食い過ぎたんじゃろ」


ジャッカルの部屋に案内されて、丸井からの不参加を伝えると仁王はため息を吐いた。


「…誕生日会、しよか」


そうして2人で並んで座ると、先程急遽買ってきたフライドチキンをもくもくと食べる。
飾り付けられた室内なのにシーンとした空気に妙な緊張感が漂う。


フライドチキンを食べ終えると、次はメインのケーキだ。

こちらも同じく慌てて買ってきた。
ホールケーキではないから、ろうそくはジャッカル用に入れてもらった1本のみに火を灯す。

ジュースも注ぐと仁王が咳払いをした。
そして苦手な歌を歌うとろうそくを消すように促すものだから、ジャッカルも照れながら息を吹き掛けた。



しかし仁王が表情を曇らせた事に気付き様子を窺っているとポツポツと話し始めた。


「本当はテニス部の奴らと誕生日会やりたかったんやけどな」


「いいじゃねえか。みんなからは今日、電話やメール貰って嬉しかったぜ」


それでも申し訳ないのか、仁王はまた一言謝るものだから、宥めるとジャッカルは仁王を抱き締めた。仁王が笑顔を見せて安心したのはつかの間。


「ジャッカル〜!誕生日おめでとー…」


声と共に勢い良く扉を開けたのはブン太だ。
薬を飲んで、あの後しばらく横になるとすっかり回復した。
不参加とは伝えたが、2人で誕生日会とは寂しいだろうと親友の家に駆け付けたのだ。


「……は?」


「…ちっ」


「…ブン太?!って、おい仁王っ」


「今からジャッカルにプレゼント渡すけん、邪魔せんで」


抱き締め合う2人にドアを開けて固まったままのブン太にそう言うと、慌てるジャッカルの耳をぺろりと舐めて仁王はこの日一番楽しそうに笑ったのだった。




「ジャッカル、ハッピーバースデー…ぴよ」






おわり

[ 38/51 ]

[next#]





×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -