POSITION(幸仁←丸)
※性格悪め。
「あれ、仁王じゃん…って、寝てんのかよ」
放課後の教室。
今日は全校で委員会の集まりがある為、ホームルーム後は教室に残る生徒はほとんどいなかった。
しかし丸井が職員室に提出物を届けて戻ると、机に伏せて寝息を立てている人物が1人。
丸井の想い人、仁王雅治。
放課後の教室に好きな相手と2人きり。
緊張を隠して席に近付く。
「…マジで寝てんの?」
部活はすでに引退している今の時期。
仁王の待ち人が誰かなんて容易に想像がついた。
以前、練習中にふざけて頭を撫でようとした手を驚いた顔をして払われた事がある。
その時は丸井も仁王もお互いにビックリしてちょっとギクシャクしながら謝り笑い合った。
けれどある時、そんな仁王の頭を撫でる相手がいた事に気が付いた。
仁王も嬉しそうに笑っていて。
「…」
モヤモヤした感情のまま、寝ている仁王の髪に手を伸ばす。
少し傷んでいる銀の髪は、夕日に照らされてオレンジ色に光って綺麗だ。
指で掬ったり手櫛を梳いたりしている内に、無防備な様子に衝動が駆け抜けた。
髪に触れていた指を形の良い耳に滑らせる。
そのまま顔を近付けて頬に触れる…
直前で仁王が身動ぎした。
「ん…、…ゆき、むら?」
「…っ!」
仁王が呼ぶその名前に胸が苦しくなって。
触れていた手を離すと慌てて教室を出た。
「ブン太」
そして廊下で呼び止める声。
「…ゆきむら、くん」
振り向いた先にいたのはまさに仁王の待ち人。
「仁王まだ寝てる?」
教室を覗けばすぐにわかる事なのに。
「仁王が可愛いからって寝込みは襲わないで欲しいな」
「……」
その言葉で、今の自分の行動を見られていた事に冷や汗が流れた。
「今日、委員会じゃ…」
「まだやってるけど、俺のところはほら、ここから見えるから」
言って指差したのは向かいの校舎の一室。
「トイレって抜けて来たからもう戻らないと。…仁王も廊下で待ってろよ」
教室に呼び掛けると、寝ていると思っていた仁王が身体を起こした。
「終わったら来るゆうたんに、まだ終わってないんか」
「仕方ないだろう、仁王がブン太に襲われたいなら退散するけど」
「アホ言うな……まさかブン太に狙われとるとは思わんかったのぅ」
荷物を持って廊下に出てきた仁王が向かうのはやはり幸村の元。
「俺は幸村のもんじゃろ」
幸村の首に腕を回して。
「そうだね」
そんな仁王に答えるように頭を撫でる幸村。
そして…
「邪魔しないでくれるかな」
冷淡かつ妖艶な笑みを丸井に向けると、仁王の身体を引き寄せた。
「…っ、ん」
見せ付けるように口付けを交わす2人に、丸井は背を向けるとその場から駆け去るしか出来なかった。
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