年下の男の子。〜2014赤也誕生日〜

「仁王先輩…キス、していい?」


そう問われた時には、すでに赤也の顔が目の前にあって。
返事をするより早く、2人の距離は0になった。





秋風が心地好い9月下旬。
部活を引退してまもなくひと月。
あんなにも毎日励んでいた習慣が無くなると途端に虚しくなった。


新部長である赤也の誕生日とあって、今日はテニス部で祝うため自分達3年も放課後は部室に向かう。


「…。いてっ」


窓際の席から外を見ていると、髪の毛を捕まれた。


「なーに、ため息とか吐いちゃってんだよ」


振り向けば同じクラスで元部活仲間の丸井だ。


「だからって引っ張るなや」


詫びもせずに前の座席に腰掛けると話の続きを促す。


「なんじゃろなー…こうやって赤也と同じ校内で過ごす時間が減っていくかと思うと何かな」


赤也が年を重ねるという事は直に冬が来て春になりそして…。
考えていたことを素直に言えば丸井は笑った。


「何だよ、ただの寂しがりかよ」


「…別にそんなんじゃ」


「まあ、オレら3年がいなくなって寂しい奴もいるんじゃねえの?」


丸井の言葉にハッとした。
今まで、共にレギュラーとして大会に出ていて、いきなり1人離されたあいつの気持ちは。









放課後の部室で、久しぶりに3年も集まり、赤也の誕生日を祝った。


「来年は、絶対に俺が王座奪還するんで」


赤也のその言葉に頼もしさを感じた。




賑やかだった誕生日パーティも終わると、部室に残るのは俺と赤也だけ。
赤也は明日の練習メニューに頭を悩ませているらしい。

「うぉっ、と…!?」


背後から肩に抱きつくと赤也が驚いて振り向いた。


「まだ終わらんの?」


「すんません…もう、ぶっちゃけ俺が全部試合すりゃいいっスかね」


すっかり面倒くさいのか、そう言って苦笑を浮かべる。


「アホ、ダブルス練習もあるだろが」


「あ…」


また悩み始めた赤也の頭を撫でながら隣の椅子に座る。

「去年の自分の練習思い出してみ」


「んー…柳先輩に特別メニューされてた記憶しかねえ…」



確かに、レギュラーとしてスパルタのように鍛えられていた事を思い出すと赤也1人で考えるのはまだまだ苦労するかもしれない。


「しかし、赤也もだいぶ部長らしくなったな」


「そっすか?」


以前なら部誌を書く事を忘れる日もあったのに、ペラペラめくればきちんと毎日目を通しているようだ。


「こうやってちゃんと部誌書いて、練習メニュー考えて…来年は観客席から優勝するの見てるからな」


「…そっか。仁王先輩達、来年は一緒じゃないんっすよね」


「…」


ついしんみりさせてしまった事に申し訳なくなる。



「けど、1年経てばまたチームメイトですもんね!ちゃんと優勝報告するんで、待っててくださいね」


自信満々に言い切った赤也に、こいつなら絶対に叶えてくれると確信した。


「…ところで」


「ん?」


「俺今日誕生日なんですけど、プレゼントないんすか?」


「…あ」


誕生日を忘れたわけではない。
プレゼントを買い忘れていただけだ。


「恋人なのに先輩ひでぇ…」


そんな俺に対し、落胆する赤也に慌てて謝るとニカッと笑った。


「まあ、みんなでお祝いしてくれたんで、別にいいっす…けど」


言葉を遮る赤也に視線を向ける。


「仁王先輩…キス、していい?」


真剣な顔が目の前にあって、返事をしようと開いた口は呆気なくも簡単に赤也の唇に塞がれた。
軽く触れて離れたかと思うと再び押し当てられた唇。目の前のコイツは余裕無さげに口を押しつけてくる。
かと言って俺にも余裕なんてないのだ。口をなぞり侵入してきた舌に目を見開くと赤也の肩を押し返した。





告白されて赤也と付き合い始めて実はまだ日が浅い。
部活も引退しているため、恋人らしい事と言えば毎日の電話やメールぐらいだ。

その為、恋人として手を繋ぐ行為もすっ飛ばして、人の唇を奪ったワカメ頭をはたいてやった。


「いっ、てえー…」


「拳じゃないだけマシじゃろ」


「何で怒るんっすかー!俺ら付き合ってるのに」


キャンキャン喚く赤也にため息が出る。
いくら付き合っていようと突然キスなんかされれば驚いて当然じゃないのか。



「…けど、仁王先輩って実は意外と可愛いんすね」


「は?」



黙ったかと思えば、そう言われて疑問符が湧く。
いやいや、格好良い仁王先輩に憧れてる内に好きになったっつうたのはお前じゃなかったのか。

「キスぐらい慣れてそうなのに耳まで真っ赤にして…可愛いっス」


抱き締めてくる身体は俺より少し小さいはずなのに、赤目で見つめてくるこいつが何故だかとても男らしく思えてしまった。

キスなんて実際はさっきのが初めてとは年上のプライドとして絶対に言ってやらないと心に決めて、格好よくなっていた赤也に赤い顔を誤魔化すように抱きついたのだった。







おわり

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