目眩



(あ、…あーヤバイなこれ…久しぶりにキた…)










梅雨入りから数日、今日は束の間の晴れ間なのか朝から明るい太陽が上がっていた。
部活の前に屋上庭園の手入れをしようと早くに学校へ向かう。



暑さ対策に帽子を被って、軍手を付けるとまずは水やりから。
日中暑くなってからでは植物達が暑さで干上がってしまうからだ。



そうして次は雑草取り。
この子達も植物だけど、すまないな…なんて心の中で謝って。






「…むら」


ん?


もう少し双葉が伸びたらヒマワリの芽を間引かなくては…なんて集中していると、名前を呼ばれたようで振り返ればジャージ姿の仁王がいた。



ああ、そうだ。
今日は部活に来たんだった。
熱中していてすっかり忘れていた。
時間を確認しようと立ち上がる。


「あ、」


「幸村っ?!」


しかし再びしゃがみこんだ俺に、仁王が慌てて寄ってきた。


目の前がチカチカして、頭もボーッとする。



「…すまない、ちょっと肩を貸してくれるかい」


「…ったく、この蒸し暑さと照り返しに立ちくらみじゃろ」


肩を支えてくれる仁王の腕を掴もうとした手に触れたのは冷たいスポーツ飲料だった。


「とりあえず、首んとこ冷やしてゆっくりでええよ」


「苦労かける」


「まったくのぅ」









「…さっき、何で俺が屋上だって分かったの?」


部室に着いて、事情を話すと真田は怒り、柳は呆れた。
それでもしばらく休んでいいとの許可も出たから、仁王も引き止めると部室で回復するまでのんびりしていた。
そして落ち着いてから問うと、仁王からは意外な答えが返ってきた。


「……いつも幸村が手入れしとるからな、こん暑さじゃし水やりしちゃろうかと思った」


いつもは一緒に見てても無関心なのに。


「ありがとう」


「おん」


「だけど、水やりは気持ちだけでいいよ。夏場は日中の水やりは厳禁なんだ。植物の水分まで蒸発して干上がっちゃうから」


「…すまん」


責めたつもりはないけどね。

仁王の気遣いが嬉しくて肩に寄りかかると、心配そうな声で顔を覗いてきた。


「まだ目眩するなら寝とき」


「大丈夫、仁王が可愛くて目の前がキラキラしてるだけだよ」


「意味わからんし…」


素っ気なく離れていく仁王の耳は赤かった。






おわり



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