門外不出。〜2014柳誕生日〜

仁王の様子がおかしい。
朝会った時からどこかソワソワしていて落ち着かない。

しかしそれに気付いているのは俺だけなのだろう。
幸村も、仁王と同級の丸井もいつもと変わらぬ様子で会話をしている。



どうしたものかと視線を向けると仁王がこちらを向いていた。
一瞬慌てたように目を見開くと何事もなかったように顔を逸らす。


…これはつまり、俺に原因があるのではないか。


昨日までは至って普段と変わった様子がなかったが。


部室にかけられたカレンダーを見て、一つ思い当たる。





―――今日は俺の誕生日だ。







祝ってもらう事に特別こだわっていないため然程気にはしないが、家族や友人から祝福の言葉を掛けられればそれはやはり嬉しいものだ。



「…参謀」


部活の終わった室内で、プレゼントを渡されたり、談笑をしていると仁王が控えめに俺を呼んだ。


「どうした」と振り向けば仁王は顔を俯かせる。


「…あんな、」


「わかった、駅の改札で待っていてくれないか」


言いにくそうに口を開いた仁王の言葉を遮ると待ち合わせ場所を告げる。
その返事に安堵したらしい仁王はそそくさと部室を後にした。




夕方とは言え、すっかり陽が延びたこの季節。
空はまだまだ明るく、学生や会社帰りの人で賑わっている。


改札の前の柱に寄りかかる銀髪を見つけて声をかけた。


「すまない、待たせたな」


そう言うと仁王は意外そうな顔をして笑った。
先程までのソワソワした気配もなく落ち着いている。


「参謀、今日の主役やけん、気にしとらんよ」


「そうか」


「…でな、これプレゼント」


仁王が差し出した袋を受け取るとスポーツタオルが入っていた。


「朝からな、渡すタイミング掴めんで迷ったんやけど…」


ソワソワしていた理由はそれか。
プレゼントを用意されていたのは思いがけなく、自然と笑みが浮かんだ。


「ありがとう、大切に使わせてもらうよ」


その言葉に仁王は心底嬉しそうに笑った。



仁王が実はシャイな事も、意外とマメで一途な事も、笑うと可愛い事も俺のデータにだけ記憶されていればいいんだ。







おわり

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