春雨
「仁王」
春を感じた暖かかった陽気から一変、今日は朝から雨が降り、冬の寒さが舞い戻っていた。
砂浜に立ち海を眺めるブン太と俺。
この寒さの中、潮風が冷たいのだからわざわざ立ち寄らなくていいだろうに。
それでも、寄らずにはいられなかった。
お互いに何を話すでもなく並んで歩いていたが、ふとブン太が立ち止まった。
そしてしばらくして何かを決心したように名前を呼ばれた。
「…ん?」
傘に当たる雨音で掻き消されてしまうんじゃないだろうか。
そんな頼りない声しか出せなくて情けなくなる。
促すように返事はしたが、本当は聞きたくない。
ブン太の言いたい事はわかっている。
「あのさ…別れようぜ」
言いにくそうに言葉を詰まらせながらも、はっきりと告げられた言葉。
予想通りだーーー
「オレらもさ、潮時なんじゃねえかなぁ…」
返事出来ないでいると更に追い打ちをかける。
わかってる。
別々の高校に進学する事がどういう事か。
わかってる。
ブン太は、男女問わずモテる奴だと言う事も。
わかってる。
俺は、…ブン太がいないと何も出来ない奴だと言う事を。
「…や、じゃ」
「…」
進学先が決まってから報告するとブン太は激怒した。
以来、気まずくなってしまったまま迎えた今日この時。
涙が流れる。
隣に近寄ると、傘を持っていない方の手に触れる。
「ブン太にな、甘えすぎたんじゃ…だから違う学校で自分でも頑張りたくてな…」
振り払いはしないで前を向いている。
「黙っててすまん…でも、ブン太とおったからやりたい事出来たし、頑張れる。だからな、学校は違ってもブン太が支えなんじゃ…」
言って指先を握ると握り返されて顔を上げる
。
「…寂しいのはオレの方だっつうの。相談もされなくてさ」
いじけたような言い方をしたブン太の頬に水滴が流れる。
「泣かんで」
「泣いてねえよ、雨だし」
袖で拭った声は震えていた。
おわり
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