ミルクティ

「仁王くん、少しばかりですが…」


「は…?」


朝のHRまでの時間を机に伏せて寝ていると、いつの間に来たのか柳生の声がした。

そして意味がわからずに顔を上げると、机の上にはラッピングされた小さな箱。


「…朝からビックリ箱か何かなん?」


「失礼ですね、違いますよ」


持ち上げて振ってみたり、耳を近付けてみたり。
しかし特別変わった様子はない。

そして、柳生からこんなプレゼントをされる心当たりもないのだが。


「何のつもりじゃ、これ」


「今日はホワイトデーですから」


「…はぁ?」


ますます意味がわからない。
ホワイトデーとはつまりバレンタインデーにプレゼントされた気持ちに返事をする日だが、バレンタインデーに柳生にプレゼントなんか贈った記憶は一切ない。


「誰かと勘違いしとるじゃろ」


茶化すように笑えば柳生は眼鏡のフレームを直しながら否定する。


「そんな事はありません。先月14日のバレンタインデーに確かに貴方からチョコレートを頂きました」

ーー同性の貴方からとあって大変悩みましたが…しかし私はやはり女性が好みと言いますか…仁王くんには大変申し訳ないですがお気持ちだけーー


勝手に喋り続ける柳生を他所に、1ヶ月前の事を思い出そうと脳がフル可動をする。


ーーやぁぎゅ、これやるぜよ。
ーーまた仁王くんは…貴方が頂いた物でしょう?
ーーええから気にせんで。俺からの気・持・ち☆


「あ!」


思い出した。
そう、あれは確かに先月のバレンタインデーだ。

大雪の降る中、学校では女子達が盛り上がっていた。
あんな天気の中、別に好みも頼みもしていない大量のチョコレートを抱えて帰宅するのが億劫で、丸井や赤也、そして柳生にも分けたのだ。


語尾に☆マーク付けて押し付けた自分にこんなにも後悔するとは。

思わず頭を抱えてため息を吐く。


「そんなに落ち込ませてしまったのなら、本当に申し訳ありません。お気持ちは嬉しいですが、これからも貴方とは良き親友でありたいと思ってます」


俺の様子を失恋のショックからだと勘違いしたらしい柳生は、ご丁寧にハンカチを差し出すと静かに教室を出て行った。


誤解されたままなのは癪に障るが、今更否定をするのも何だか面倒で。

この1ヶ月、どれだけ柳生が悩みに悩んだかを考えると可笑しくて。

まだ誰もいない教室の中、笑いすぎて涙がこぼれた。






おわり


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