春を待つ。
「ふふっ」
「なに?」
3学期が始まり早数日。
部活もすでに引退している為、学校が終われば帰るだけだ。
隣を歩く仁王が不意に笑った。
どうしたのかと足を止めて様子を伺う。
「ん?あんな…」
「何だよ」
楽しそうに言葉を濁す仁王。
コートのポケットから手を出すとマフラーで口を覆い直す。
「いや、陽ぃ延びたなって」
「ああ…」
何がそんなに嬉しいのかと思いつつ同意をすれば仁王が言葉を続ける。
「俺な、この時期のこの時間意外と好きなんじゃ」
「へぇ」
仁王が素直に好きな物を口にしたのも珍しく、
頭を撫でてやると少しむくれた。
「バカにしとるじゃろ」
「してねえよ。可愛いんだもん」
「…やっぱバカにしとる」
顔を逸らした仁王が機嫌を損ねたのはわかった。
「何で」
「…」
「ごめんって、教えてよ」
「…あんな、こう春に近づいてく感じがな…好きなん」
「…っ」
自分で最初に言ったくせに耳を赤くして。
やっぱり可愛い。
「…まだまだ寒いんやけどな、学校終わっても日暮れるまでブン太とも居れるじゃろ」
「!!」
そんな事を言った仁王が可愛くて仕方ないのはいつもの事。
「明るいと仁王と人前で手繋げねえじゃん」
「…ブン太は春嫌いか?」
「まさか。でも、暖かくなったらお前と出掛けられるしな。それに仁王が好きな時間を一緒に過ごすのオレ好き」
「おん…」
仁王がはにかんだ。
直に陽も暮れる。
まだまだ寒い。
今日は手を繋いで帰ろうか。
おわり
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