君はボクのもの
「ッ!?」
それは突然の事だった。
終業式の朝、教室に着いてみれば頬を抑えて呆然とする親友と、左手を震わせて僅かに涙を浮かべて睨み付けているクラスメイトがいた。
「仁王?どうしたんだよ突然…」
とりあえず、他の生徒達が登校する前に話を聞こうと声をかけた。
しかし。
「…ジャッカルのアホんだら」
「なっ、」
オレの存在に気付いてないのか、ジャッカルにそれだけ言うと呼び止める声も無視して教室を出て行ってしまった。
「…何、お前と仁王とか珍しいじゃん。ケンカ?」
「…いや、わからねえけど。さっき挨拶したら不機嫌そうで。そのまま」
「バチーンと」
しばらく黙っていた親友に声をかければ、ああ、と頷くも理由のわからない行動に落ち込んでいるようだった。
「あ、そういや昨日はサンキューな!みんな喜んでたし」
和ませようと話題を変え、ニッと笑えばジャッカルも笑顔を向けた。
こうなったら、親友とクラスメイトの為にオレが一肌脱ごうじゃないか。
そう告げると、まずは仁王を探しに教室を飛び出したのだった。
「仁王ー」
まずは校舎裏。
しかし北風が吹き抜ける日陰には当然いるわけはなく。
「にーおー」
次は部室。
しかし朝練の準備に追われる後輩達の姿だけ。
「ったく…仁王〜出てこいよー!」
呼び掛けて見つかるなら世話ないか、と足を止めた時にスキンヘッドが目の前を走り抜けると階段を駆け上って行った。
「おい、仁王いた?」
「え、おおブン太か!今、上がってった、サンキュ」
気付いていなかったのか、驚いた後短く説明すると再び走り上がっていく。
つまりは、もう大丈夫なのだろう。
しかし、あの2人が喧嘩とは何となく気になってオレも静かに後を付ける事にした。
「仁王!」
ジャッカルは屋上の扉を開けた。
オレはその背中を見届けると扉の隙間から様子を伺う。
「仁王」
「…何じゃさっきから」
再びジャッカルが名前を呼ぶと、フェンスから下を眺めていた仁王が静かに返事をした。
「何って、そりゃ俺が聞きてえよ」
「…俺もお前さんに聞きたい事あるんじゃ」
振り返った仁王はさっきの不機嫌さはなく、寧ろ淋しそうな顔をしていた。
「何だよ」
「…昨日電話した時誰とおったん?」
「昨日?」
その問いにそういえば、と思い出す。
昨日は冬休み前の3連休最終日で、小学校時代の友人数人と遊びに出かけたのだ。
勿論それはジャッカルも一緒で、計画を持ち出したのはオレ。
昼飯を食べ終えた頃にジャッカルは確かに誰かと電話をしていたようだが、友人達が進んでしまったので声を掛けた。
それにしても仁王からとは珍しい。
「誰って、同じ小学校の友達と「ブン太もじゃろ?」」
自分の名前が出てドキリとする。
「そりゃ、今回遊ぶ予定立てたのはあいつだし、みんなを集めたのだって」
「……」
何やら不穏な雰囲気にどうするべきか迷っていると仁王が再びオレの名前を口にした。
「いつもブン太ブン太って…何なんじゃ!そんなに子豚がええなら勝手にしんしゃい」
「なっ、どういう意味だよ!」
全くだ!
オレのどこが子豚なんだよあの白髪野郎。
「…お前さん、俺と一緒におる時もブン太の話ばっかしよるくせに」
そりゃジャッカルが良くねえわ。
つうかそんなにオレ話題持ってないから!
って、え?
「それは、共通の友達だからで」
「他にもテニス部の奴らおるじゃろ…」
「……」
「それに、俺が知らんジャッカルの小学校ん時をブン太が知っとるのが…嫌じゃ」
「仕方ねえだろ、それは」
「もっと早くにジャッカルと知り合ってれば俺の事考えてくれたんじゃろ…」
「仁王…」
!?
静かに様子を見ていれば、何とジャッカルが仁王を抱き締めた。
「悪かった」
しかも仁王もどこか嬉しそうで。
…え?
いやいや、ちょい待て。
「許してやるからチューして」
「ん」
………はぁぁぁ??
マジで?
聞き間違いかと思えば、ジャッカルは慣れたように照れる仁王の唇にキスをした。
「これで機嫌直ったのか?」
「ん。ビンタしてスマン…」
そしてやたら甘い雰囲気を醸し出した仁王が先程殴ったであろう頬に触れる。
「ったく、ブン太に嫉妬なんかしなくても、お前にしか見せてない顔だってあるだろ」
「…ムッツリジャッカル…」
仁王の手に手を重ねると抱き締めていたもう片方で腰を撫でているのが見える。
「ックシュン…」
……マジかよ。
知ってはいけなかったようなあまりの真実にくしゃみを抑える事を忘れた。
そしてそんなオレに気付いた2人が慌てて振り返る。
「ブン太?」
顔を赤くして焦るジャッカルと。
「…覗きとは趣味悪いのぅ」
刺々しい視線を向ける仁王。
「ジャッカルは俺のもんじゃき、ブン太には渡さんぜよ」
オレは取り急ぎ謝ると屋上を後にしたのだった。
おわり
ブン太に嫉妬する仁王が書きたかった…けどちょっと違う話になった。
仁王誕からのクリスマス編と言う事で。
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