※POP〜2013仁王誕生日〜

「今作るからよ、ちょっと待ってろ」

「おん」




厨房に入り、エプロンを付けてオヤジさんの姿を見ながら中華鍋を握る姿は初めて見た。
期末期間に入り午前中で学校を終えると、今日は誕生日だからと昼飯を作ってくれると誘われたジャッカルの家。
今までも部員達で何度か来ているがジャッカルの手料理を食べるのも今日が初めてだ。



「待たせたな」


しばらく頬杖を付きながら様子を窺っていると、湯気の立ち上る熱々のラーメンが目の前に置かれた。

「イタダキマス」

「どうぞ」


スープをれんげに掬うと一口。


「うまい」

「そりゃ良かった」


厨房の中でオヤジさんと顔を合わせた後、はにかんでこちらを向いたジャッカル自慢のスキンヘッドには汗が光っていた。
その男様が格好良く見えてしまうとは、女々しいだろうか。
スープまで飲み干すと改めて手を合わせて礼を言った。。




「片付けたら行くから先部屋行ってていいぜ」


食事を終えるとそう言われて、店内も混んで来ていた為そうする事にした。
案内されたジャッカルの自室も、今までに何度か来た事はあるが付き合い始めてからは実は今日が初めてだった。
1人で待つのも落ち着かずソワソワしながら部屋を見渡す。
わりと几帳面なジャッカルは服もきちんとハンガーにかけてあって、部屋の中には机とベッドとシンプルなカラーボックスを横にした上に小さなテレビと繋がれたゲーム機。
そのどれもがきちんと整頓されていて、更に落ち着かない。


「…何かないかのぅ」


何となくイタズラとおもしろ半分でベッドの下に手を入れた。


「…あ、」


引っ張り出てきた物を見て目を丸くする。


「見かけによらずムッツリなんか」


まさかこんな場所にはないだろうと踏んでいたが、いざ見つけてしまったそれは俺もタイトルとあらすじ位は聞いた事のある映画…をパロディにした所謂、洋物AVだった。

お互いに好きで付き合っているが、実はキスから先、つまり性行為は今だに経験がなく、ましてやこういった内容もジャッカルは苦手だと思っていた為、ただただ驚いた。


「…ちょっとぐらいええよな?」


耳を澄ませて、人の気配がない事を確認すると、テレビとゲーム機の電源を入れる。
イヤホンを繋げると画面へと向き直った。


AVなんざ今まで自分でも見た事はあるがパロディ、しかも洋物には手を出した事はない。


「っ…!」


興味本位で再生したそれは、元の作品の内容は大概無視していたが、日本人のような作られた喘ぎ方ではないその様子に意識しなくとも身体は熱くなっていく。


だがここは恋人とはいえ他人の部屋。
ましてやそいつが隠していた物を勝手に再生し、勝手に興奮したのだから自業自得としか言えない。


「そろそろ、止めるか…」


一人ごとを言ってしまうのも気を紛らわす為で。


ところが、映像に見入っていたのか部屋のドアがノックされていた事に気付いていなかった。










「っ、仁王!」


突然肩を掴まれて身体が跳ねる。
慌てて顔を向ければ、焦ったような呆れたようなジャッカルがいた。


「…お前何勝手に」

「すまん…つい暇でな。物色したら見つけた…お前さん、いつもこんなんで抜いとるん?…俺、洋物は始めて見たぜよ、思った以上に刺激強いのぅ」


自分でも驚く程ペラペラと言葉が出る。
だが視線は合わせられずに俯けば、主張している自分の股間が目に入り自己嫌悪に陥る。


「…待たせたのは悪かった。それ、は…俺が買ったわけじゃなくて、向こうに住む従兄がくれたやつで…いや、貰った以上は俺のだけどよ…」



頭を掻きながらしどろもどろになるジャッカルには悪いが、正直今はこの場をどう切り抜けるかで頭がフル回転していた。


はず。


「いや…それよか…な?ゆうたじゃろ刺激強かったって…だから」


自業自得で情けないのだが、俺の頭は欲望を選択していた。


「…セックス、せん?」



情けない。










*****







自分でもわかる程、顔に熱が集まる。
今まで自分から行為に誘った事はなかったし、むしろジャッカルからも至らなかったのは、もしやプラトニックな関係での交際が目的だったからじゃないだろうか。

そうなれば、自分のこの発言、そして行動は明らかに破局へのカウントダウンだ。


「…すまん今の忘れんしゃい、俺やっぱ帰る。ラーメンうまかった」


誕生日に自分のせいで失恋なんかごめんだ。
部屋を出ようと慌てて立ち上がる。


「仁王、」


しかし名前を呼ばれるのと同時に抱き締められた。


「なん、」

「…好きだぜ」


改めて告げられるととても恥ずかしくなるのは相手がジャッカルだからだろうか。


「今まで、ずっと我慢してきた…」


ジャッカルの腕を掴めば不安そうな顔を上げた。


「お前が良いなら…」

「…俺もジャッカルとなら」


言い終わる前にキスをされて言葉が遮られた。


今まで交わした優しいキスと違う勢いに思わず顎を引いた。
けれど後頭部を支える手が逃してはくれない。


「んっ…」

「仁王」


唇を合わせたまま囁くように名前を呼ばれて更に熱は高まる。


「っう、ん」


そのままフローリングに押し倒されても、止むことなく繰り返される長いキスに息が苦しくなり、こいつの持久力を思い出すと力ない手で制止した。


「っはあ、…は…窒息…させる気かっ」

「すまねえ…」


荒い呼吸をする俺とは対照的にすまなさそうだが平然とした様子のジャッカル。


呼吸が落ち着くまで横に寝そべると髪を透きながら顔中に口付けをされた。


その心地好さに腕を伸ばして頭を撫でてやる。


「あんな、いっこ頼みたいんやけど」

「どうした?」

「…さすがに床は止めんか」

「ああ」

ベッドを指差すとジャッカルも苦笑しながら離れた。


2人してベッドに上がると改めてキスをされる。


そのままゆっくり倒される身体。
寝転んだ枕からはジャッカルと同じ温かい匂いがした。






「っうん」

ジャッカルの指がようやく俺自身に触れる。
先程のDVDで熱くなっていたそこは、何度もされたキスと身体を撫でる優しい手の刺激ですっかり硬くなっていた。


お互いに衣服を全て脱ぎ捨てれば対照的な色白と色黒の身体。

思わずジャッカル自身を口に含んだまま笑えば不思議そうな声が聞こえた。



「ジャッカルは生まれつきハゲなんか」

「んなわけあるかよ」

「んー?やってここもツルツルしとるし」

「…おい。普通剃るもんじゃねえのか?」

「女は知らんけど男はなかなかな」

「そうなのか。…ああ、そういやブン太も喜んでたな」

「…ほぅ」


行為中にも関わらず、他の奴の名前を出すとは無神経な。

と言うか、


「喜んでたって何じゃ、ジャッカルはブン太にも見せたんか」

「バカ!ちげえよ。小学校ん時に聞いただけだ」


焦るジャッカルを余所に、吸い付いてみればますます硬くなる。


しかしふと気付く。


この後の行為を。


「っん…ジャッカル、」


目の前にある尻をペチペチ叩いて、行為を止める。


「どうした?もういいのか?」


こちらを向いたその顔は、珍しく荒い呼吸をしていて、つまりはその間自分のモノを刺激されていた証で。
その事実に柄にもなく緊張する自分は、今更何を言っても無駄だろう。


「いや、…そのな…俺初めてやけん…ようわからん…のよ…」


自分から行為に促しておきながら、恥ずかしさが募る。


「ああ。…嫌だったら、すぐに言えよ」

「…ん」


キスをされて安心したのは束の間で。

ジャッカルの口付けが徐々に降下して行く。
そして再び自身をくわえられ左足を持ち上げると指は後方をなぞり始めた。


「っあ、」


更にそこに温かくヌルヌルした感触があたり、ますます顔が熱くなる。


「ジャ、ジャッカル…」

「ん?痛いか?」

「いや、ちゃうけど…そこ…」


何とも言えずに呼び掛ければ指はそのままに顔を上げる。


「それとも、気持ちいいのか?」

「は?…っあぁぁ、ん!」


ゴツゴツした指の感触に戸惑っていたはずが、一瞬なぞられただけで達してしまった。


呆然とする俺を余所に、ジャッカルは指を増やすと更にそこを刺激する。


「ちょ、アホッ!」

「俺も、早く仁王の中に入りたいんだよ」


熱の籠もったその言葉に、意識しなくとも指を締め付けたらしい。
ジャッカルが指を引き抜くと舌なめずりをした。


普段のお人好しで温厚な雰囲気ではなく。


「……お前、やっぱりムッツリじゃろ」


緊張と恥ずかしさを誤魔化すように悪態を漏らせば、いつものような笑顔を向けられて安心する。


「あのなあ…仁王が柄にもなく、真っ赤だから煽られるんだよ」

「はあ?」


そんな事を言われても煽っているつもりはないのだが。
反論する間もなく、先程指を抜かれたそこに熱が押しあてられた。


「可愛い反応するのが悪い」

「ちょっ、早…。つか、誰が…」

「それ無自覚かよ…」


可愛いと言われて顔を見られないように両腕で覆えば外されて。


「そういうとこが可愛い」


こいつはどれだけ俺に盲目なんだ。
母国でサンバを踊る女達のように柔らかく揺れる胸も尻もないのに。


緩やかな律動にもどかしさを訴えれば、また優しく笑う。

嬉しいやら気持ち良いやら恥ずかしいやら情けないやら。
いろんな感情で涙でぐちゃぐちゃになった顔を見ても愛しそうに笑ってくれる。

その笑顔が好きだ。
本当に、柄にもなく向けられるその笑顔に照れてキュンとする俺も十分盲目なのかもしれない。







「…」

「…仁王」

「誕生日にな、まさか初体験迎えるとは思わんかった」

行為の余韻に浸っていればジャッカルが謝ってきた。

「…俺から誘ったんやし謝らんでよ」

「いや、ケーキもプレゼントも用意出来てねえんだ」

そんな事かと頭を撫でれば、お前が生まれた日だろ?と抱き締めてくれる。

「いらんって別に。ホンマお人好しじゃ。俺もジャッカルん時メシ奢る位しかしとらんじゃろ」

「俺はその気持ちに返したいんだよ」

お人好しな上に律儀な奴だ。

「…ジャッカルの気持ちは全身で受け取ったから…今日はもう腹入らん…」

我ながら、あの誘い方はない。
それでも愛しい気持ちがいっぱいに溢れたセックスを誕生日に出来た事は、本当に幸せだと思う。

「しっかし、お前さんの体力に合わせてたら俺の身体もたんぜよ…」

「…お前が可愛いから仕方ねえだろ」












おわり






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