※雨の中の打ち上げ花火

『本日の花火大会は、雨天の為中止となりました。繰り返します。本日の花火大会は』


そんなアナウンスに騒めく会場。

しかし空を見上げれば雷も鳴っていて、とてもじゃないが花火を見れる天気ではなかった。


「残念やね」


「だな。仕方ねえから帰るか」


「おん」


この花火を楽しみに集まった観客の人混みに紛れて、オレ達も手を繋ぐと足早に駅に向かう。


傘は途中のコンビニで買って、2人で入る。


路地を過ぎた辺りでカップルが少なくなった事に首を傾げるも、光るネオン看板に納得した。


「オレらも寄ってく?雨宿りに」


「あほ」


冗談で言ったら仁王は呆れていた。


まあ中学生の男同士で入れる場所ではないわな。






駅に着くと着たまま衣服を搾る。
予想以上にびしょびしょで笑ってしまった。


タオルで軽く拭いてから電車に乗り、家へと向かう。


冷えた身体に冷房があたって仁王がくしゃみをした。








「今日みんな留守だから」


今朝から家族は揃って旅行に出かけた。
オレは部活もあるから留守番してるって断った。
実際日中は蒸し暑い中ひたすらテニスをしていた。


仁王を家に入れるとまずは風呂に案内した。

くしゃみまでしていて、大会前に風邪をひかれては困るので、とりあえず温まってもらわなくては。


「すまんのぅ、先風呂借りる」


「おう」


その間にオレも着替えて、お湯を沸かしてカップラーメンでも作ろう、そう思ったのも束の間。

仁王がオレを呼ぶ声が聞こえた。



「仁王?」


一応ノックをして浴室の扉を開けると、イスに座り情けない顔をした仁王が振り返った。


「…雷鳴っとる?」


「え?ああ。さっきより酷くなったかな」


「……」


「どうかした?」


「…髪洗って欲しいなり」


「はぁ?」


話してる間も雷は鳴っていて、その度に仁王が肩を揺らす。


「もしかして、目閉じるのヤなんだ?」


「…おん」


確かにシャワーを出していても、雷の響く中目を閉じて髪を洗うのはなかなか緊張する。
それでも、普段稲光を見て花火みたいだと楽しんでる弟達を見ているとオレ達の歳がそんなに怖がるものか?とも思う。


とは言っても仕方ないので、まだ着替えてなかったジーパンの裙を捲ると浴室に入り仁王の後ろに立つ。


「じゃあ、シャワー出すから目瞑ってろよ」


言うと仁王は安心したように目を閉じた。


仁王の髪はフワフワしていて気持ちがいい。


「痛くない?」


「平気、気持ちええよ」


しかし、そんな事をこの状況で言うこいつが悪いんだけど。

普段は結んでいる髪も今は解かれているから色気も増す。

わざとうなじに指を這わせると仁王の身体がビクリとした。


「…ブン太、止めんしゃい」


「何が?」


とぼけながら、弱い事を知っていて、耳たぶの裏から泡をすくい上げる。


身体を捩らせて抵抗してるけど嫌なら出ればいいのに遠くで鳴り続ける雷にそうも出来ないらしい。


チラリと見れば、タオルで隠れてはいるもののイスに座る仁王のそこは布を押し上げているのがわかった。


「身体も洗ってやろうか?」


普通の会話じゃシャワーの音に掻き消されそうな為、耳元で甘く囁く。


「…っ、いらん」


「そ?じゃあそろそろシャンプー流すぜ」


残念に思いながら、髪についた泡を洗い流す。


シャワーが済めば、目も閉じないから大丈夫だと追い出された。

どっちみち今日は泊まるのだから後でいいか、と浴室から出て足を拭いたところで辺りが真っ暗になった。


「…え」


直前、一際大きな雷が鳴っていた。

しかしまさか停電するとは。


「…ぶ、ブン太おる?」


カチカチと電気のスイッチを確認していると、扉の向こうから仁王の情けない声がオレを呼ぶ。


「いるよ」


「…電気わざと消したん?」


「ちげえよ、どっか雷落ちたっぽいな。停電した」


「……」


「今懐中電灯探してくるから待ってろ」


脱衣所から出て壁伝いに手探りで。
そう思ったのに再び仁王が呼ぶから足を止める。


「何?」


「…一緒におって」


「いいけど…オレもまだ着替えてないからこのままだと風邪ひく」


「…一緒に、風呂入ればええじゃろ」


「…!?」


ついさっき追い出したくせに何て奴だ。


そう思うのに、仁王の言葉にオレの身体は素直に反応を示す。


「でもうちの風呂狭いし」


「…大丈夫じゃろ、くっつけばちょっとぐらい」



「…くっついて入っていいんだ?」


「……」


返事を聞く前に、着ていた物を全て脱ぐと浴室の扉を開けた。


「ったく…」


「こっちのセリフだっつうの」


その素早さに、湯船に浸かっていた仁王が呆れて笑う。


「つうか、やっぱ暗いな」


「おん」


一層強くなる雨の音と光る稲光。


暗くて手元が覚束ない為、とりあえず軽く身体を洗い流した。


「ちょっと避けてろ」


仁王を壁側に追いやると、手すりを手繰って湯船に浸かる。


足を折り曲げて入ればちょうど良い。


「仁王」


「なん?」


「もっとくっついて入る?」


「…もうくっつかんでええやろ」


「そう言う事言っちゃうかぁ」


「ちょっ、なん…」


仁王の肩を掴むと身体を反転させて、後ろから抱き締める位置に引き寄せた。


「オレ、足伸ばして浸かりたいしさ」


「…っ」


「それに、こっちのが安心するだろぃ」


雷鳴の度に跳ねる身体は何だかいつもより小さく思えた。


「…ところでブン太さん、」


「んー?」


「…当たってるぜよ」


「ああ」


そりゃそうだ。
ラブホに流れるカップル達を見送り、水の滴る仁王のうなじを眺め、そして一緒に風呂になんて言われたら反応しないわけがない。


「とか言いながら、お前もさっきから何てタオル巻いてんだよ」


「っあ、待ち、」


腰に掛けられていたタオルを剥ぎ取ると、同じように興奮している仁王のそれ。
タオルが擦れて仁王が一緒、甘い声を漏らしたのは聞き逃さない。


そのままの態勢で右手だけを中心に這わせると上下に擦り始めた。


背中にキスしながら左手は胸や腹を撫でて、右手は握り締めたそこを撫でれば仁王は熱を含んだ声で名前を呼ぶ。


「はあっ、ブン太…」


「なに」


「…かお、見たい…」


何を言うかと思えばそんな事。
狭い浴槽の中で仁王が身体の向きを変えた。


「稲光でもこの距離なら良く見えるじゃん」


仁王の顔は赤く火照っていて、瞳が揺らいでる。


「仁王、もっとくっついていい?」


頬にキスしながら囁けば仁王が身じろいだ。


「…ん、」


仁王の返事を聞くと同時に腰を撫でると尻の割れ目に指を這わす。


「っ、あ」


「すげえ、いつもより柔らかい…」


「んっ」


「風呂だから?それとも停電して真っ暗だから興奮してんの?」


「わ、からんっ」


「まあ、男同士が風呂でセックスしてた時に落雷で死んでたらニュースだよな」


背徳感を煽る言葉に仁王のそこは更に指を締め付ける。


そろそろ我慢の限界で指を抜くと、収縮するそこにお湯が入ったようで、それにすら喘ぐ仁王は本当にエロい。


いつのまにか雷は収まっていて、外から聞こえるのは静かな雨の音。
暗い浴室に響くのは仁王の喘ぎ声とお湯が撥ねるばしゃばしゃと言う音。
オレが腰を揺らすリズムで浴槽の中も揺れて。


仁王がオレの肩から手を離すと自身に伸ばしたのを合図にラストスパートをかける。


「っああ、ん」


「仁王…」


「ん、ぅ」


響く自分の嬌声に耐えきれなくなったのか仁王がキスをしてきた。


そのキスに答えながら更に身体を密着させると仁王のそこがきつく締まる。


そしてお互いに達すると浴槽の中で脱力したのだった。









「っはぁ、…あ、ほ」


「だ、れが。…お前か、ら誘っ…たろ」


腕に収まる仁王が悪態を漏らした。
2人揃って逆上せた為、立ち上がるに上がれない。
しかも、疲労した身体には水圧が重く感じて仕方ない。


「もうさ…このまま寝ちゃう?」


「……」


腰を軽く動かすと仁王が無言で腕をつねってくる。


「いった、何だよ」


「電気」


言われてみれば復旧して灯りが点いている。


「…仕方ねえから着替え取ってくるか」


ため息を吐いて、浴槽から出るとドアに向かう。


「ブン太」


脱衣所に出てタオルで身体を拭いていると、浴槽に残した仁王がオレを呼ぶ。


「んー?」


「…ありがとう」


「……!」


仁王のその言葉で浮かれたオレは、花火が見れなかった事も、びしょ濡れで帰ってきた事もどうでも良く思えたのだった。
そして翌日、結局風邪をひくとは思っていなかった。










おわり

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