※見えない気持ち(幸→仁)
「ッン、あ!…や、っゆ、きむら…っはぁぁ、ん」
「っ!」
締め付ける体内に耐え切れず精を放てば、俺の背中に回されていた腕が力なく垂れた。
どうやら仁王は、自分が射精すると同時に気を失ってしまったらしい。
「好きだよ、仁王…」
囁いた声はきっと聞こえてないんだろうね。
始まりはいつもの何気ない会話のはずだった。
「丸井先輩、この人可愛くないっすか?」
「はぁ?やっぱこっちの子だろぃ、胸デカイじゃん」
「うげっ、先輩ホント巨乳好きっすね…」
「うっせーな」
部活の後、帰り支度をしていた丸井と切原が騒ぎ始めた。
真田でもいれば既に怒号が聞こえてそうだが、今日は早々と帰って行った為、特に怒る人間がいない。
内容は切原が友人から借りたグラビア雑誌の話題。
顔立ち可愛い系が好みらしい切原と、胸の大きさから見る丸井とで意見が分かれた時に名前を呼ばれた。
「なあ、仁王はどう思う?」
「んー?そうやね…俺は抜ければ別に」
「うーわ、仁王先輩言っちゃった。最低っ」
「まったくだぜ…好みのタイプ聞いてんだっつうの」
「すまんかったのぅ、てっきりそういう話かと」
「はいはい。下半身男は放って早く帰ろうぜ、ジャッカル待ってるし」
「…ブンちゃん酷ーい」
「仁王先輩きめぇ」
笑い飛ばしながら部室を出ていく2人を見送る。
いつもの事と会話に呆れていた柳生と柳も着替えが済むとそれぞれ帰宅して行く。
気付けば部室に残るは俺ともう1人だけとなった。
「相変わらずだね、丸井と赤也は」
「いつも適わんぜよ、勝手に人ん事巻き込んでからに」
「ふふっ、仁王が振り回されるのも珍しいよね」
部誌を記入していた幸村と、ラケットの手入れをしていた俺。
2人になった室内は、さっきまでの騒がしさが嘘のように静かだ。
「…仁王は下半身生物だったのか。確かに歴代彼女たくさんいるよね」
「…その言い方やめんしゃい」
先程のブン太の言葉を思い出したのか、幸村がクスリと笑った。
「まあ、元彼女の多さは否定出来んけど。…幸村はなんつうか、性欲とは無縁そうな顔しとるな」
ふと横目に見た表情はとても凛としていて、情欲に駆られて誰かを求める姿など想像が出来なくて思ったままを口にした。
「そうかな。俺だって好きな子を意識したら興奮するよ」
「ほう、そりゃ意外…っ」
椅子のがたつく音がした。
気配が近くなると同時に幸村が目の前にいて。
「誰かみたいにおっぱい星人じゃないけどね」
その言葉の後、視覚が遮断された。
「んっ、ぅ…はぁ…」
視覚を奪われた俺にまず触れたのは、幸村からのキスだった。
直後ロッカーに寄り掛けられると、ちゅっ、と触れるだけのキスは徐々にエスカレートし、いつの間にか幸村の舌が俺のそれを絡め取りながら口の中を動き回っていた。
「ふふっ、仁王可愛い」
「な、っにさらすんじゃ、アホ」
ようやく解放されれば幸村は楽しそうにそう言った。
俺も突然の事に頭が働かず、無意識に口を拭うと相手を罵る事しか出来ない。
「早よイップス解きんしゃい」
「やあだ」
「っ!ちょっ、やめろ」
視覚がない為、目の前にいるであろう相手を認識するのに聴覚と感覚に意識を集中させる。
しかし、それをわかっていて耳元に囁きかけられると身体が跳ねた。
思わずはたこうとした手は掴まれてしまって。
「耳、弱いんだ?」
振りほどこうにも力強い腕は、簡単に俺の腕をロッカーへと追い詰めた。
「幸村、いい加減冗談はやめんしゃい」
「俺が冗談なわけないだろう?」
睨み付けても焦点の定まっていない視線ではまったく意味がなく、楽しそうに答える幸村の声に冷や汗が流れる。
「…っ、」
気を張っていても、気配だけでは相手の行動が読み取れない。
突然耳たぶに舌を這わせた幸村を突き飛ばしたくても、身体ごとロッカーに押しつけられて身動きが出来なかった。
くすぐったさを感じたかと思えば首筋を舐められて身体が大きく跳ねた。
「…ぁ、っ幸村!…ん」
その反応が楽しかったのか、耳たぶから首筋にかけて何度も舌を往復させる。
「感度がいいんだね。意外だな」
「違、ぅ…も、やめ、…ッア!」
脇腹から入れられた手が胸を撫でた。
思わず漏れた自分の声に驚いている間もなく、幸村はそこを撫で回す手を止めない。
「仁王は乳首弄られるの好きなんだ?」
「っ…!」
耳元に囁かれる言葉は相変わらず、俺の羞恥を煽るものばかり。
「耳、やめ…ろ」
「仕方ないな」
しかし、そんな事を強請った自分にすぐ後悔する。
幸村に支えられて立っていた身体は床に座らされた。
「な、っん!ぅあ」
「ここも触ってほしかったんだろう?」
乳首に吸い付きながら局部に触れた手がそこを撫で始めた。
やわやわと触れる指に身悶えする。
「やっ、め」
「……わかった」
重い返事の直後、不意に離れて行った気配に様子を伺っていると、静かな足音。
そしてドアを開閉する音がした。
「…っは。な、んじゃアイツ…」
漸く身体を解放された事に安堵する。
「幸村ぁ?」
恐る恐る名前を呼んでも返事はない。
安心した。
欲に浮かされた頭は、視覚が奪われたまま部室に取り残された事より、今はこの高められた欲を吐き出したかった。
そして戸惑う事なくハーフパンツと下着を下げると熱い塊が飛び出した。
「ん、っ」
直に触れたそれは、普段自分で触るよりも濡れていて、すでにくちゅくちゅと音をたてていた。
目を閉じて、聴覚と手に神経を集中させる。
「っは、ぁ」
性器を握り締めた手を動かしながら頭の片隅で考える。
さっき丸井や赤也に言った事は嘘ではない。
結果として熱を吐き出せるなら、相手の顔や体型にさして興味はなかった。
行為としてやる事は誰が相手でも同じ。
オナニーだろうとセックスだろうと、昂ぶった熱を擦り動かして吐き出す。
それなら自分が気持ち良くなるところを触ればいいだけ。
『乳首弄られるの好きなんだ?』
「あ、っ…!」
幸村の言葉が頭を過った。
言葉のままに、反射的に触れたそれは堅くなっていて、さっきまで触られていたように摘んでみると、性器が更に膨らみヌルついた。
今まで自分で触っていなかった部分がこんなに気持ち良いなんて。
右手で胸を、左手で性器を握り熱い息を吐きながら行為に没頭する。
「っん、ハァ…」
「ふふっ」
「!?」
あと少し。
しかし一瞬聞こえた声に血の気が引く。
「やっぱり乳首弄るの好きなんだ」
「ゆき、むら…?」
「そうだよ」
出て行ったと思った人物の声にどうしようもない羞恥心が湧く。
「お前、帰ったんじゃ」
近づいてくる足音。
「こんな状態のお前残して帰るわけないだろ。…あーあ、こんなに濡らして。…見えなくても興奮するのか」
「ちがっ」
オナニーをしているのを見られていたなんて。
しかしその事実に萎える事のないそこに熱が集まったのはわかる。
「早くイきなよ、見ててあげるから」
耳に吹き込まれる言葉に煽られる。
「嫌、じゃ…」
それでも微かに残る理性が拒否をする。
「それならこうしてあげる」
手を退かされたかと思えば先端をくわえられた。
「ちょ、っ幸村」
「なに?」
握った手を動かしながら舐められて。
「はぁ、っ…」
「今まで彼女にやらせなかったの?」
自分でも驚くような声に口を抑えているとその様子に気付いた幸村が尋ねてきた。
「っそんな、ん…せんでもええじゃ…ろ」
「ふーん」
こんなに感度良いのに勿体ない。
扱く手が早くなって、先端を吸われて…幸村の声が遠くなった気がした。
「っあ、ぁ、…イくっ、…!」
射精して呼吸を整えていると突然キスをされた。
「ぅ、んっ、」
「うまい?」
離れた幸村からのキスは苦味と独特の臭いがして。
「んなわけあるか、アホッ」
「そう?」
再び口付けられて、もはや抵抗する力のない身体はその行為を受け入れるだけだった。
座らされていた身体は、いつの間にか床に寝転んでいて、背中に痛みを感じる。
段々と熱を取り戻した性器に指を這わされていると、突然尻の間に何かが触れた。
「っん、幸村…?」
「俺もそろそろ我慢出来そうにないんだ」
「え、っ…あ、待ちんしゃいっ」
行為の先がわかって慌てて抵抗するも、股を持ち上げられると垂れていた先走りを舐めとるように尻にぬるりとした感触がした。
そして解れた頃幸村の指が入れられた。
「1本は大丈夫、かな」
そう呟くとすぐに2本目を入れられて動かされた。
「やっ…ちょ、いたい…っ」
「うん、確かによく締まるよ。けど…」
「!?っア、なんっ」
「ここは気持ち良いだろ?」
指の動きに異物感しか感じなかった身体が突然、全身から力が抜けるような快感を感じて高い声が漏れた。
「ここ、前立腺って言って仁王が1番気持ち良いところだよ」
まるで自分だけがそこで感じるかのような言い方をされても言い返せる余裕はなかった。
「あぁっ…そこ…っや、」
「そんな事言って、さっきまでより気持ち良さそうだけど」
「っは、指っ動か、さんで…」
「こう?」
快感に耐え切れずに懇願したものの、中を左右に広げられる感覚にゾクゾクする。
「うん、そろそろ大丈夫そうだね」
「っん…」
指を抜かれたかと思うと熱いものがあてがわれた。
「…仁王、入れるよ」
「ゃ…、っはぁ」
「ん…っ」
その熱が押し広げながら入ってくるのがわかる。
痛くて苦しいはずなのに、自分の口からは拒絶の言葉は出てこない。
聞こえるのは自分が発する高い声と、幸村が漏らす熱い吐息。
…それから、認識したくはない繋がっている音。
「っあ、ん」
「仁王っ、」
いつの間にか幸村の背中にしがみ付くように腕を回して。
「っぅ、ん…」
キスをされて目を開けばもう暗闇ではなく、眩しさの中に色気を放つ幸村の切な気な顔が目の前にあって。
「ア!やっ…だめっ…」
「仁王、…きだよ」
「んっ、」
首筋に埋められた声はくぐもっていて聞き取れなかった。
その後、射精を迎えると俺は気を失っていた。
「…襲うつもりはなかったんだけどなぁ」
嫌われた事は確かだ。
後処理と着替えを済ませて、ベンチに寝かせた仁王に視線を向ける。
達した後、気を失った仁王は今だに起きる気配はない。
「だけど仁王、お前が大好きなんだ」
こんな自分勝手な告白も聞こえてない寝顔はとてもスヤスヤと暢気なもので。起きる気配のない相手の額にキスを1つ。
「ごめん」
一言そう謝ると部室を後にした。
おわり
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