焦がれる。(真←仁←丸)〜2013真田誕生日〜

「あっちぃ〜…」




蒸した陽気にうんざりしながらパタパタと体操着の胸元をはためかせた。

高く上がった太陽から照りつける日射し。
今日はまさに体育祭日和だ。









教師からの集合の合図に、グランドにいる全生徒が整列する。



(オレだって、2学期には伸びんだからな…)


背の順に並ぶと真ん中より前の方になってしまうので何とも悔しい。



開会の言葉やら校長の挨拶も終わり、次のプログラムは準備体操だ。
体育祭実行委員なんて係を率先している真田が朝礼台に上がった。


両手を開き、左右前後との幅を確認する。
ふと後ろに目を向けると、遅れて来たのか1番後ろに、朝のHRやさっきの整列にはいなかった銀髪が見えた。



(…体操は出るんだ)



何となく面白くなくてすぐに前を向いた。




いつもはダラダラしてる仁王が、準備体操をする。
それはもちろん、朝礼台に立つ真田を見ながら。


今更確認しなくてもわかってしまう。
他の生徒がめんどくさそうに眺めるのとは違う視線は、これでもかと言う程に瞳に焼き付けるように見つめている。


(仁王が真田に惚れるとか…)



いつだったか、仁王の様子が変わった箏に気付いてしまった。
3年になりクラス替えで違う組だとわかると、まさに意気消沈したように落ち込んでいた。


その後も、何かある事に忘れ物は真田の元へ借りに行っている。


呆れられる箏さえ、話せるならば仁王にとって嬉しいのだ。
休み時間だからと一緒に行こうとしたら、1度拒まれた箏がある。


柳生に話を聞けば、やはりA組に来ては真田を訪ねるらしい。






モヤモヤしながら、体を動かす内に準備体操は終わっていた。
クラス待機席に戻る途中、呼び止められて振り返れば真田だった。


「丸井、何だあの体操の仕方は」

「ちゃんとやってただろぃ」

「体操を怠りケガでもしたら意味がないだろう!」

「…競技前にはアップするって」


よりにもよってな相手に内心舌打ちをして答えていると、今度は違う声が聞こえた。


「真田、今日暑いけん。そんなガミガミしとるとむさ苦しいぜよ」


「なっ、仁王!」


「ほれほれ、早よ行かんと次のプログラム始まるぜよ」


会話に入ってきた仁王により、そのまま真田も何も言わずに去って行ったが、その背中を見つめる視線は淋しそうだった。



「ブン太、何で怒られたん?」


「体操の仕方にケチつけられた」


席に戻る途中、隣を歩く仁王が尋ねて来たから素直に答える。


「ふーん。…真面目にやっとると気付かんのか」


小さく聞こえた声に顔を上げると、仁王は「ん?」と不思議そうな表情をした。







個人競技は徒競走ぐらいで、あとはクラス対抗のものばかり。

昼休憩も終わり、ますます盛り上がる応援の中、席に仁王を探すといなかった。
この暑さに、どこか日陰でサボってるのだろう。




間もなくクラス対抗リレーが始まる。


オレは席を立つと仁王を探しに行った。










「仁王、」


「…ブン太か」


「お前サボってんなよ、次で終わりだぜ」


仁王は教室にいた。
机に突っ伏したまま顔を上げない。


「真面目に出てると俺ん事見んのじゃもん、あいつ」


聞き取れた声は小さくて、震えていた。


今まで仁王に恋愛相談をされた事はない。
それでも、そんな弱音を漏らしたくなる程真田を見てるのかと思うと、悔しくなった。



「オレにすりゃいいじゃん…」


「ん?」


「いや?早く戻ろうぜ。次のフォークダンスで終わりだぜ」


きっとオレの気持ちなんて気付かないんだろうな。


「早く来ねえとオレがそいつのダンスの相手しちまうからな」


だからオレも、仁王の好きな奴には気付かない振りをして。




踵を返すと椅子のがたつく音が聞こえた。








おわり


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