一期一会
「すみません、相席してもよろしいでしょうか?」
声を掛けられて顔を上げると、今時珍しい七三分けで、眼鏡をかけた見るからに優等生そうな男子生徒がそこにいた。
中学に入学して数週間。
少しずつ学校にも慣れて来た頃、初めて学食で昼食を食べる事にした。
上級生達で溢れているカウンターで注文を済ませて、ざっと食堂内を見渡すと、ちょうど空いた座席が目に入った。
4人掛けのどのテーブルも1席しか空いてなかったり、斜め相席していたりで座りにくく、どうしようか考えていたところでこの空席。
カレーうどんをトレイに載せると、俺はその席の壁側に腰を掛けた。
相変わらず賑わう食堂内だが、俺の見た目のせいか周り3席は一向に埋まらない。
(まあ快適でいいか…)
そう思っていた時に声を掛けられた。
「…ん」
麺をすすっていたので、とりあえず頷いた。
「ありがとうございます。では、失礼いたします」
眼鏡の男はフレームを直すとやはりやたら丁寧に礼を述べた。
「……いやいや」
「どうかしましたか?」
「何で隣座るんじゃ、お前さん」
「こちらの方があと2名相席しやすいでしょう」
「……」
相席を許可した後、こいつはなぜか俺の隣の席に腰を下ろした。
さすがに初対面でこれは何だか居心地が悪く、思わずリアクションすると相手は何食わぬ顔でそう言った。
真正面に座られるのも嫌だがこの狭いテーブルで隣と言うのも。
返事を出来ないでいると、相手は何かに気付いたらしい。
「ああ!仁王くんは左利きでしたか」
食べにくかったですか?なんて見当違いな事を言い出す始末。
つうか。
「何で名前知っとるんじゃ…」
さらりと自分の名前を呼ばれて驚く俺を尻目に、この男は最初の印象を覆すように口角を上げるとこう言った。
「さあ?なぜでしょうか」
その後何を尋ねても「お答え致しかねます」だの「ご自分でどうぞ」だの会話は続く事なく、奴は食事を済ませるとさっさと席を後にした。
その日の放課後。
「一緒にアップしませんか?」
なんて、笑顔で声を掛けられて、俺は柳生比呂士を認知したのだった。
おわり。
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