午前0時17分〜2013幸村誕生日〜
夜中の0時を迎えた時、ベッド横の机に置いていた携帯が着信を知らせた。
相手は同じ部活仲間のブン太からで、いかにも彼が好きそうなケーキのイラストのテンプレート。
そして『誕生日おめでとう、体調どう?』の一言。
そのメールに次ぐように届いたメールは赤也からだった。
ブン太はともかく、赤也は寝坊しなければいいな、と心配になる。
他にも数人、友人からメールが届いた。
返事は朝でいいかな、そう決めると携帯を閉じて今度は枕元に置くと身体の向きを変えた。
消灯時間もとっくに過ぎて、特別眠れなかったわけでもない。
それでも枕元に、なんて何かを期待している自分に自嘲気味な笑いが込み上げた。
「誕生日、覚えてないかも知れないしな」
自分でそう結論付けると更に虚しさが湧いた。
布団を頭まで被り寝る態勢に入った時、携帯がさっきまでとは違う振動を鳴らした。
「もしもし」
「あー、俺じゃ俺」
「…今時それはないかなぁ」
慌てて出た電話の相手は待っていた相手からで。
さっきまで感じていた虚しさが晴れていく。
「ははっ、すまんのぅ。今電話大丈夫か?」
「さっきナースさん見回り来たからしばらく大丈夫」
「体調は」
「仁王の声聞いて治ればいいんだけどね」
「そら特効薬じゃき」
「…こんな時間まで、テスト勉強?」
もしかしたら偶然、気紛れな電話かも知れない。
まだ、期待している自分がいる。
「まあそんなとこかの。今まで国語やっとった」
やっぱり気紛れか。
それでもこうして話せている事がすごく嬉しい。
「…どうやって、誕生日メール送ろうかずっと考えてたら出遅れたなり」
「え?」
「……あー…誕生日おめでとう、幸村」
勝手に期待してモヤモヤしていた気持ちはすっかり晴れて、耳に残るその言葉に返事するのを忘れていると電話の向こうで俺の名前を呼ばれた。
「幸村?」
「あ、ありがとう」
「…おん」
「ビックリした。忘れてるかと思ってた」
「忘れるわけないじゃろ、俺と3ヶ月違いで」
「3ヶ月と1日だよ」
「柳みたいな事言うのやめんしゃい」
仁王の呆れてるような言い方にクスクス笑う。
「でも本当、最近連絡も見舞いもなかったから…不安だったんだ」
もしかしたらこんな病に倒れた俺が面倒くさいのでは。
「すまん。実はダブルスで柳生と組む事になってのぅ」
いろいろ秘策を試行錯誤しとった。
そう楽しそうに話す仁王が少し羨ましい。
「俺もそのダブルス見たいな」
「おん、俺も早くまた幸村とテニスしたい」
「…テニスだけ?」
だから少し意地悪な質問。
「え、いや…また一緒に弁当食ったり」
「あとは?」
「登下校とか…」
「うん」
「か、買い物したり…?」
しどろもどろになる仁王を可愛いなと思う。
告白した時も普段のポーカーフェイスなんて繕えなくて慌ててたっけ。
「俺は今すぐにでも、仁王を抱き締めてキスしたいよ」
思った事を素直に言えば仁王が言葉を詰まらせた。
「仁王と、もっとたくさん恋人らしくデートしたりイチャイチャしたりそんな普通の生活に早く戻りたいな」
「……アホ」
「…仁王は違うの…?」
「っ…、俺も、幸村に抱き締められて…キス…したい」
「珍しく素直で可愛いと思うよ」
「…うっさいのぅ!」
「放課後、会いに来てくれるよね?」
「当たり前じゃ、つうかこれで行かん言うたら怒るじゃろ…」
「さあ?それは仁王次第かな」
なんて、仁王が来ないはずがないと確信してるから言えるんだけどね。
携帯からピー…ピー…と不快な音が聞こえ始めた。
そろそろ充電が切れるらしい。
「風邪ひかないでよ」
「へーき」
「放課後、待ってる」
「ん、じゃあの」
終話と共に電源の切れた携帯。
机の時計を見れば間もなく1時になる頃で。
さっきまであんなに虚しかった気持ちはとても満たされていた。
「俺も寝ようかな」
おやすみを言いそびれた…心地いい睡魔の訪れた頭でそんな事を思いながら眠りについた。
おわり
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