ピンク
おかしい。
どうしたんだ俺は。
「何か仁王顔赤くねえ?なあ?」
「…そうですか?」
隣に座るいつも世話焼きな柳生さえ気付かない変化。
「風邪じゃなさそうだな」
顔を覗き込んでいたかと思えば額に触れる丸井の手。
それに気付いた瞬間、それこそ熱が出たかのように目頭が熱くなって顔が火照ったのがわかった。
「…さ、寒かっただけじゃ」
「そう?」
「おん…」
丸井から視線を逸らして答えると特に気にした様子もなく納得すると手が離れた。
その手を惜しく思うなんて。
いつからだったか丸井の顔を見ると鼓動が早まり、最近では顔を直視するのも憚れる。
一体どうしたんだ俺は。
クラスでも席が近い丸井は事ある毎に話し掛けてくる。
しかし顔を見れば火照る顔。
隣に腰掛けられればいつ触れるかわからない体温に緊張する。
そんな自分を誤魔化すように視線は合わせなくなった。
もともとあまり人の目を見て話す事が得意ではなかったから多少視線が合わなくても気にされない。
と思った。
「…仁王最近、オレに冷たいよな」
「は?何言うん突然」
「ほら、今も視線合わせねえし」
「…偶然じゃろ。つうか最近目悪くてな、つい凝視してまうから気ぃ付けとるんよ」
「初耳」
ある日の放課後だった。
テニス部で集合がかかり、部室に着けばまだ誰もいない時だった。
「まあコンタクトでもいいんやけど、柳生と入れ替わるとコンタクトの上に眼鏡かけるから頭痛くなるしのぅ」
言って丸井の反応を窺おうかと顔を上げてしまった。
「ふーん…じゃあこの距離なら見えるだろぃ?」
目の前に俺をじっと見つめる丸井の顔。
「…え、ちょっ近い」
「距離感ブレてねえじゃん」
不満気に離れた丸井。
「つうか、何でそんな照れてんだよ」
「!!」
「ちょー顔真っ赤」
「…うっさいのぅ」
そうだ。
この前も柳生が鈍いわけではなく、丸井に対して照れる俺に丸井が気付くだけの話だ。
「お前が照れてるとか何か可愛い」
「照れとらん…」
「その顔で?」
思わず両手で覆えばクスクス笑う。
「仁王はオレの事好きなんだろ?」
「…!」
そうか。
俺は丸井が好きなんだ。
だからあいつの視界に俺が映ってるかと思うと目を合わせられず、更に体温を感じてしまえば距離の近さを自覚して緊張したのか。
「…おん」
「お前ニブイんだよ、ばーか」
認めたもののますます丸井の顔を見れる状態ではなかったのに、顔を覆っていた両手を剥がされた。
「…オレもいつも緊張しながらお前に触れてたんだよ、この鈍感!」
明るさに瞬きしていると、剥がした手首を掴んでいた丸井との距離が近くなった。
顔が離れると、同じように顔を赤くして笑う丸井と目が合った。
おわり
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