笑う門には福来る?

「そこの兄ちゃん達、日本酒あるよ」

「すみません、中学生なので」


そう断ると、神社の境内で参拝客にお神酒を振る舞っていたおじさんは目を丸くして驚いた。


「そうかよ、悪かったね。甘酒なら平気か」

「はい、ありがとうございます」




初詣に訪れた学校近くの神社はとても混雑していた。

おじさんから甘酒を受け取り、改めて周りを見渡す。

部活仲間達と一緒に来ているはずなのに、今俺の隣には仁王しかいない。

「はぐれちゃったなぁ」

「仕方ないぜよ、こんだけ人おったら8人で歩くのは無理じゃろ」

「そうだね。先に参拝して待ってようか」

「おん」







2人で長い列に並ぶ。
何列か前に周りより頭一つ分高い柳の頭を見つけた。
誰かと話してるように見えるあたり、恐らく柳生や真田も一緒だろう。



しばらく進んで、今度は後ろから賑やかな声が聞こえてきた。
チラリと振り返ればブン太と赤也とジャッカルで、途中屋台にでも立ち寄っていたのか手荷物が増えていた。





「仁王、5円玉持ってる?」

「んー?…あー、10円ばっか」

「じゃあこれ」

「…いや、俺は遠縁で良か。幸村がおるけん」

自分でそう言いながら耳まで赤くする仁王。

「……なら俺も」

人混みの中に紛れて手を繋ぐ。







「何お願いしたの?」

「…教えん」


みんなにメールで合流場所を伝えて、しばらくの間お守りを買ったりおみくじを引いたりして待っていた。
その間、先程念入りにお参りしていた仁王を思い出して問い掛ければ顔を背けられてしまった。


「そっか。やっぱりこれが始まりなんだね」

「なん、」

「さっきおみくじが凶だったし、恋愛運は相手の隠し事に注意って書いてあったけど、そうか…」

「は?え、」

「仁王はもう俺に愛想が尽きてるんだね…」

「違っ、俺は幸村の」

「…ん?俺が何?」

いかにも哀しそうに俯いていれば仁王が焦って口を開いた。
口角を上げて笑顔を向ければ「しまった…」と言わんばかりの仁王の顔。

「だから、そのな、」

「うん、」

「あんな…」

「うん、」

じーっと見つめていればシドロモドロに話す仁王が可愛くて。
俺の事をお願いしてくれたのかと思うと嬉しかった。


「だから、幸村がもう病気したり俺から離れんようにって」

「ありがとう。心配しなくても俺は仁王から離れたりしないよ」

繋いでいた手を強く握ると仁王は嬉しそうに笑った。









「お、そこのお父さん、日本酒あるよ」


みんなと合流して帰ろうとした時だった。
そう呼び止められた真田に一同爆笑し、今年も良い仲間達と楽しい1年を過ごせるようにと静かにお願いした。








(なあなあ、幸村くんおみくじ引いた?)
(うん、大吉だったよ)
(…え?)
(あ…)








おわり

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