ひなたぼっこ(真田)
「にゃあ」
「んー?めんこいな、腹減ったんか」
「にゃー」
「猫は好きか」真田にそう問われたのは今朝の朝練の時だった。
時々校舎裏で野良猫と戯れている事を注意されるのかと身構えながらも素直に頷いた。
「…ならば帰り俺の家に寄って行け」
「…は?」
しかし真田から続いた言葉は予想外のもので思わず目を見開いてしまった。
「佐助が…いや、兄の子供が子猫を拾って来てしまったのだ」
「……」
「仁王、聞いているのか」
「…ふっ、はは。そういや真田はおいちゃんやったな」
真田の甥っ子とは何度か会った事もあるが、改めて真田が伯父だと認識すると面白い。
「何がそんなに可笑しい」
ずっとクスクス笑う俺に眉間の皺を深くして問う真田。
「真田がそん顔でおじさんなんてまんま過ぎて笑えるぜよ」
「……」
「で、帰りにそんニャンコ見に行っていいんか」
「…ああ」
笑いすぎて溢れた涙を拭いながら確認するとおもしろくなさそうな真田が頷いた。
「真田。こいつ腹減ったらしいぜよ」
「…そうなのか」
「たぶんな」
帰りに真田の家に寄ると噂の子猫を抱いて連れてきた真田にまた笑いが込み上げた。
デカイ図体のくせに小さいものの扱いが不慣れそうで何とも頼りない。
甥っ子は習い事に出かけたらしく家の中は静かだ。
「牛乳とかないんか」
「む、今持ってくる」
真田が台所に向かうのを見送ると再び子猫と向き直る。
拾い猫、と言っても子供に捕われる程度には人懐こく生粋の野良ではないようだ。喉を撫でてやるとゴロゴロと鳴らし目を細めた。
そのまま様子を見ていると膝の上で俯せて寝始めてしまった。
「…困ったのぅ」
「どうした」
声に振り向くと1リットルパックの牛乳とお猪口を盆に乗せて持ってきた真田がいた。
あまりのミスマッチさに吹き出せば真田は不機嫌そうに顔を顰めた。
「……いや、お猪口って」
「…これぐらいしか見当たらなくてだな…ところで何が困ったのだ」
「ん?」
「今そう言っていただろう」
「ああ、こいつが寝てしもうたんよ」
隣に座った真田に膝で眠る子猫を見せる。
「そうか」
「腹減りかと思ったら違ったぜよ」
「ああ」
スヤスヤ眠る子猫を撫でていると突然頭を撫でられて驚いた。
「何すんじゃ突然」
「……すまん。いや、仁王は猫のようだと思っただけだ」
「は?」
「…何と言うか、この柔らかい毛触りが猫のようでな」
「……」
「それに自分の興味のない事には見向きもしない。フラッと姿を消しては日向にいるしな」
その通りだから否定も出来ずに真田の肩に寄りかかればふ、と笑いが聞こえた。
「…何じゃ」
「いや、それに他人から構われるのは好まないくせに淋しくなると誰彼構わずに擦り寄るな」
「……」
お前は柳かと思うぐらい、あまりによく見られていて今更だが照れくさい。
だが訂正が1つ。
「…俺が自分から擦り寄るんは真田だけなり」
「……」
「真田の、この大きい手で撫でられたくて。こいつみたいに安心出来るんはお前さんの隣ぜよ」
「そうか」
「…おん」
その後間もなくして帰宅した甥っ子に子猫を連れて行かれてしまったがたまにはこんな風に構ってもらうのも良いかもしれないと思った。
おわり
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