Second Love
生まれ育った国柄、同性愛への偏見や抵抗はなかった。
しかし、それでも初恋は幼稚園の頃、担任のグラマーな女の先生だった俺には、自分が同性に抱いた感情にとても戸惑った。
「おい、ブン太」
「あ?」
「あいつ誰か知ってるか?」
そう、あれは日本に暮らし始めて3年、中学に入学したての頃だった。
「あいつって誰だよ」
「(知らねえから聞いてるんだけどな…)えーっと、あの窓際で机に突っ伏してる派手な奴」
「んー?ああ、仁王の事?何、お前も何かされたわけ?」
クラスにはまだ慣れないため、昼休みは同じ小学校だった親友のクラスを訪ねる。
その隣のクラスに今話題に出ているそいつはいた。
「…ブン太は何されたんだ?」
「あれ、言わなかったっけ?入学式ん時にガムが終わっちゃってよポケット探してたらあいつがくれたんだ」
「良かったじゃねえか」
なかなか良い一面があるな、そう1人胸中で感心をする。
「でもそれが引いたらパッチンガムで、すげえ指挟んじまったの」
「は?」
「しかも謝りもしねえでひっかかるとは思わなかったナリ〜とか言ってどこか行っちまって!だからオレはあいつ嫌い」
「……」
親友のあまりの勢いに圧されて、俺は自分の話をするタイミングを逃していた。
まさかその時、遠目で見ていた、イタズラに成功して笑った顔がきれいで可愛いと思ったなんて。
「(…寧ろ言わなくて良かった、よな)」
「で?仁王がどうかした?」
「(…昼休み、いつも寝てんのかな)」
「おーい、ジャッカル〜?」
「(俺も話してみてえな、とか女々しいよな)」
「聞けよハゲ!」
「いってえ!」
つい仁王に想いを馳せていると頭に衝撃が。
「お前から話振ってシカトすんなし!」
前を向けば頬を膨らませて機嫌を損ねたブン太。
「すまね」
「ったく、帰りにミスドな」
「はいはい」
返事をしながら仁王の席に視線を向ける。
いつの間にかあいつの姿はなく少し残念に思った瞬間だった。
「あんまり叩くと可哀想ぜよ」
クスクス笑う声と頭を撫でる手。
驚いて振り向けば先程まで話題に出ていた仁王本人で。
「うっせ、てめえなんか嫌いだ」
「おーおー、ひどい言われようやの」
俺を挟んでキャンキャンわめくブン太と飄々と楽しそうな仁王。
その手は俺の頭に置かれたまま。
そしてあのきれいな微笑み。
「ったく、行くぞジャッカル!」
また見惚れていたところをブン太の言葉で引き戻された。
「えっ、おいブン太!」
「行ってまうん?…じゃーの、赤いブタさんと、ジャッカル」
腕を引くブン太に続きながら去り際に仁王を振り返ればヒラヒラと手を振って笑っていた。
「ブタじゃねえ!やっぱお前むかつくな!」
またも喚くブン太を落ち着かせるように予鈴のチャイムが鳴ったのだった。
「(今日頭洗うのやめとくか…)」
そしてその日の放課後、見学に行ったテニス部で再会する事になるとはまだ知らない。
おわり
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