洋梨と私
「仁王くん、今日はゼリーでよろしいですか?父がお中元に頂いた物ですが」
「おー、気ぃ遣わんで良かよ」
柳生の家に遊びに行くと、必ずお茶菓子が出され遇される。
ママさんがいる時ならまだしも、柳生以外留守の時でもそうなのだ。
さすがジェントルマンと言うべきか。
「今日も暑かったですね」
「そうじゃなぁ…真田が怒鳴ると更に暑さが増すぜよ…」
「それは仁王くんがだらけるからですよ」
そんな会話をキッチンとダイニングで交わしていると、柳生が冷たい紅茶とゼリーを運んで来た。
「洋梨…?」
「ええ、頂いた中でもこのラ・フランスのゼリーは特に美味しかったですよ」
「ラ・フランス…」
「仁王くんはお嫌いでしたか?」
先から柳生の言葉を繰り返す俺に、申し訳なさそうに尋ねてくる。
「いや、大丈夫。普段ラ・フランスって言い方せんから、さすが柳生じゃぁ思っただけ」
「何ですかそれ」
クスクス笑う俺に不思議そうな顔をする。
「うん、ウマい」
「お口に合ったなら良かったです」
「なんつうか、柳生っぽいのぅ、ラ・フランスって」
一口二口とスプーンは進む。
柳生が認めるだけあってやはり美味い。
「私ですか?」
「そ、幸村ならピオーネ、ブン太はイチゴ、赤也はお子様やからメロン、ジャッカルはオレンジ」
「真田くんと柳くんがいませんが」
「あの2人は水羊羹ってとこかの」
「…それは…まあそうですかね。では仁王くんは何ですか?」
「俺は洋梨」
「ラ・フランスじゃないですか」
「いんや、柳生がラ・フランス、俺は洋梨」
カラになった容器をテーブルに置くと紅茶に手を伸ばす。
「何が違うんですか?」
「柳生は紳士やけぇ、ラ・フランス。俺はそんなお前さんに似た存在の洋梨」
「似てる存在…」
「そ、まあイメージの違いかのぅ。幸村は葡萄でも巨峰でもなくピオーネ、ブン太もストロベリーやなくてイチゴ、そんな違いだっちゃ」
「では私と仁王くんの根本的な部分は同じと言う事ですね」
「そういう事。んー、ゼリーも紅茶も美味かった」
「それは良かったです」
美味いと告げて笑えば、向かいに座る柳生も嬉しそうな顔をする。
「では、私の部屋で宿題を始めましょうか」
「…柳生はせっかちじゃの」
折角2人で過ごせると言うのに、何て無粋な話題を振るんだ!
そんな視線を向ければ、「部屋の方が都合が良いでしょう?」なんて紳士らしくない返事が聞こえた。
―――ラ・フランスのように甘い時間を君と。
おわり
洋梨とラ・フランスは別物ですね、ごめんなさい。
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