鏡
0210なので(…強引な)
「仁王」
下駄箱に向かい階段を降りていると、踊り場に差し掛かった所で後ろを歩く人物に名前を呼ばれた。
「ん?」
チュッ
振り向けば二段上の場所から左手が伸ばされて、後頭部を掴むと額にキスをされた。
「っ!?」
「仁王、好きだぜ」
そう告げた彼の瞳は真剣で。
「ブン…っと」
しかし状況が飲み込めず名前を呼ぼうしたが、そのまま抱き締められてよろけた弾みで壁へと追いやられてしまった。
「ブン太?…ちょっ、何…」
「お前いい匂いすんな」
「はぁっ?」
俺を抱き締めたまま、首筋に顔を埋める。
「っん、…待ち、」
しかし、そのまま首筋に吸い付かれたかと思えば、顎まで舌を這わせ始めた丸井に焦り、慌てて抵抗を試みる。
「いいから黙ってろって」
「なっ、…ん」
抵抗虚しくも、口唇にキスをされてしまえば何も言えない。
「っはぁ…っ、」
酸欠なのか快感なのか、ようやく解放された頃には頭がクラクラした。
壁伝いに座り込むと、目の前の丸井もしゃがみこんだ。
「…ったく、突然何すんじゃ…」
呆れながら睨み付けるが、悪びれもしない。
「ははっ、ところでさ、」
言葉を区切った相手に嫌な予感が生まれる。
「…なん…?」
「お前、今すごいエロい顔してる」
そう笑って振り返った視線の先には、反対側の壁…に備えられた大きな鏡。
丸井に釣られて向けた視界の中には、丸井の上着の裾を掴む頬を上気させた自分と、そんな俺に対していたずらっぽく笑う奴の姿。
「〜っ!!ちが」
「違くねえだろ?」
顔を逸らし慌てて手を離しても、丸井には見透かされているに決まってる。
「…、お前さんもじゃ」
背けた顔を再び向き合わされると、愛しそうに、しかし情欲的に俺を見つめる視線と合わさった。
悔しいから今度は俺から抱き付いてやる。
可愛い、なんて嬉しそうに笑う声が聞こえたが、俺からしたら不本意だ。
…けど、丸井の肩越しにチラリと見た鏡に映る自分は、予想以上に嬉しそうで。
「ブン太のあほっ…」
こんな表情をこいつに向けてるのかと自覚したら、ますます恥ずかしくなって、呟いた悪態も照れ隠しだなんて勿論バレバレで。
そんな俺を力強く抱き締め返してくれるこいつが愛しいと思った。
おわり
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