肉の匂いに誘われて、見慣れたワカメ頭を追い掛けて来た。そして気が付いたらブン太の家の前で。玄関を開けたブン太の姿を見るなり抱きついていた。


「ブン太!」


「って、え、仁王?!」


気絶してしまったワカメに気を取られていたのか、ブン太は驚いていた。


「ブンちゃん…」


寂しかったのと嬉しいのとで更にギュッと抱きつくと、ブン太がいつもみたいに頭を撫でてくれた。


「おかえり仁王…いつもと反対だな」


いつもは玄関で待つ俺に、帰宅したブン太が頭を撫でてくれるのだ。


「心配したんだからな…」

そうして抱きしめ返してくれる腕が微かに震えていた。


「ホントに出ていくと思わねえし、捕まってたり、車にぶつかってたらって不安で捜し回ったんだからな…」


「…すまん。」


しかし、そんな雰囲気を打ち消したのは俺の腹の虫だった。


「こいつ見かけてな、肉の匂いがしたから追い掛けて来たら家に着いたなり」


その言葉に笑顔を見せたブン太は「飯作ってやるよ」と言うと、ドアを閉めてワカメ頭を担ごうと屈んだまま動かない。


「どしたん?」


少し唸るような声に驚きつつ窺えば「風邪ひいてた事思い出した…一気に怠くなったわ」と言うものだから、これはワカメより先にブン太を寝かせなくては。慌てて抱き抱えれば驚いたわりに笑っていた。


「いつも仁王にはこんなふうに見えてるんだな…」


ブン太の暖かい腕の中を思い出す。擦り寄せてくれる頬が好きだ。


そんな事を想いながら寝室のベッドに下ろすと、次はワカメをリビングのソファーへ。
腹も減ってヘトヘトだが、体調の悪いブン太には休んでいてもらいたい。俺に出来る事と言えば一つだけだ。


「ブン太」


「んー?」


「一緒に寝てもええ?」


いつだって、ブン太が調子が悪い時、落ち込んでいる時は一緒に寝ていた。ブン太も良くなれば嬉しそうに笑うから。「よくわかるなぁ」って撫でてくれるから。


「いいけど…狭くね?」


苦笑しながらも端に寄ると布団を開けてくれたブン太。


「こうすれば平気じゃろ」


モソモソと潜り込むと両腕で抱き締める。


「ブンちゃんあったかいのぅ…」


「まさか仁王にカイロにされる日が来るとは思ってなかったぜ」


寒い夜、俺を抱き締めて眠るブン太の腕の中はとても安心する。


寝息が聞こえたのを確認すると、俺も誘われるがまま2日振りの布団で眠りに就いたのだった。


「ただいま、ブン太」




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