「ブン太、アカヤ聞きなさい」

「んー?」

「なんすか」

「先程招待状が届いたのですが、近々お城で王子様が結婚相手を決めるパーティーがあるそうですよ」

「マジ?パーティーっつったらうまいもん食い放題じゃん!行く行く!」

「俺もこの前買ってもらった新しいドレス着て行きたいっす!」


とある晩、ヒロシが帰宅後に伝えた話題に、ブン太もアカヤもすっかり行く気満々です。


ニオウは人混みが苦手な上、自分には縁のない事…と興味もなく右から左に聞き流しておりました。



「わかりました。王子様に見初められれば妃になれるのですから、パーティー用にドレスを新調しましょう」

もちろん、妃の母となればヒロシの身分も上がるものですから、娘達に華やかなドレスを用意する事はすぐにわかりました。


「ああ、ニオウくんはいつものように家の留守を頼みますね」

思い出したように名前を呼ばれたニオウは、視線を合わせると静かに頷き、再び掃除を再開させたのでした。








「よっしゃ、行くぜ〜食い放題♪」

「楽しみっすね〜!」

はしゃぐブン太とアカヤを微笑ましく見つめるヒロシの姿がありました。

ニオウは今日も一人、家の炊事や洗濯などを押し付けられております。
それでもいつもと違うのは、今日は口煩い三人が留守になる事です。


「それではニオウくん、行ってきますね」

「やっきにく焼肉〜♪」

「早く行きましょうよ!」

「焼肉…?」



出掛ける直前聞こえた単語に、ニオウの心が揺れました。
何を隠そう、焼肉は彼女の大好物なのであります。
母が亡くなって以来、貧しい生活の中でも、父が時折贅沢をして食べさせてくれた思い出の料理。
父が再婚してからはブン太やアカヤの食べたい物ばかりが食卓に並び、父の亡き後はますますニオウにそんな贅沢をさせてもらえる事はなかったのです。



「…俺もパーティー行きたいのぅ」


途端に腹の虫が鳴きました。
家の中を見渡して、目に付いた物のはブン太のおやつ。一つでも減れば何を言われるかわかったものではありません。台所にも食材はありましたが、自分の下手な料理をわざわざ作る気にはなりませんでした。



「「食いたいぜよ焼肉…」」


「とお前は言う」


再びぼやいたニオウの言葉と一緒に別の声が重なりました。
驚いて振り向くと、スラリとした長身の見知らぬ男が立っていました。男は三角の帽子を被り、黒いマントを羽織って「魔法使いのヤナギだ」と名乗りました。





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