(丸々して旨そうやのぅ…)


「おい仁王、赤ずきんは食べるなよ。あの子は糖分を摂り過ぎていてお前の口には合わないぞ」


柳が仁王に話し掛けます。

「…何じゃ、花のくせに」

「あの子の知り合いの木が言っているんだ、間違いないだろう」

「食の好みは俺の勝手じゃ…あんまり口うるさいとお前さん潰すぜよ…」

「………」



そんな2人の会話にも気付かず、一生懸命花を選ぶ赤ずきんに静かに近付くと、仁王は背後から抱きしめ―――――ようとしたところで赤ずきんが振り向きました。



「そういや、お前名前は?」


「!!…あ、……仁王…」


「仁王か、いい名前だな!オレはブン太、シクヨロ☆」


赤ずきんからの思いがけない言葉とその笑顔に、仁王は別の感情が沸き上がりました。


(……タイプぜよ)



「…そろそろ、行くんやろ?」


もう行ってしまうのかと思うと淋しいですが、平静を装いながら話し掛けます。


「んー…もう少し摘んで行くから、仁王先に行ってばあちゃんに遅くなるって言っておいてくれねぇ?」


「…了解なり」


しかし、予想もしていなかったチャンス到来です。
仁王はおばあさんの家へと急いで向かいました。






―――――――







「…はい、どちら様ですか」


コンコンとノックをするとおばあさんの返事が聞こえました。


「おばあさま、赤ずきんぜよ。お見舞いに来たナリ」


そう言うとおばあさんはドアを開けてくれました。


「ありがとうございます、ブン太くん…………おや、失礼ですが、どちら様でしょうか」


しかしそこにいたのは赤ずきんではありません。
おばあさんは訝しげに問います。


「赤ずきんは遅れるそうでな。先に行って伝えるよう言われたんじゃ」


「そうですか、それはありがとうございました」


おばあさんが会釈をし、ドアを閉めようとした手を掴むと、オオカミは家の中に押し入ってきました。


「な、何ですか、あなたは!」


「お前さん、俺とソックリな顔しとるのぅ…ちょっと入れ替わってくれんか?」


「は?」


驚いたおばあさんは、メガネがずれたのも関わらず呆気に取られていましたが、しかしその切れ長の瞳や顔立ちは仁王ととてもよく似ています。

そして気付けば口を布で塞がれ、手足も紐で縛られるとベッドの下に押し込められてしまいました。







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