ブン太が怒った。
いつも笑って頭を撫でてくれるブン太が出て行けと言った。


「……」



窓を開ける。
12月の風は冷たい。

キッチンで背を 向けているブン太を一瞥して、俺は静かに外に出た。




外に出るなんて久しぶりで、どこに行けば良いのかわからない。
月に照らされた自分の影は耳と尻尾はいつものままなのに、手足が伸びてる様は全く違う。



「…サンタのアホんだら」


俺は人間の姿になりたいなんて願ってない。
ただ、ブン太と会話をしたかったたけなのに。


鼻をすすると記憶を辿って暗闇を歩く事にした。








ーーーーー





仁王がいない。
いつも腹が減ると足元をちょろちょろしてご飯を欲しがる仁王がいない。







朝から信じられない事が起きた。

猫耳と尻尾の生えた男が部屋にいた。
そいつは自分の事を仁王だと名乗って昨日の誕生日にプレゼントした首輪を付けていて、コタツでうたた寝したオレに寄りかかるように寝ていて、腹が減ったとオレの後をついてきた。


「…サンタのせい、なのかよ?」


オレはただ、仁王と話してみたかった。
いつも隣にいる大好きで可愛い仁王と。








「仁王…?」


冷たい風を感じて振り返った先に仁王はいなかった。
慌てて揺れるカーテンを捲ると窓が開いていた。






ーーーーー





記憶を辿って夜道を歩く。
と言っても猫の姿でない今は塀や屋根の上を歩けるわけもなく、ただ勘を頼りに以前メス猫達と遊んでいた公園を目指した。




「…こんな時間じゃ誰もいないのぅ」


何とかたどり着いた公園に猫の姿はなく、余計に虚しい気分になった。



「ニオウ?」


どうしたものかとベンチで横になった時、名前を呼ばれた。




「俺がわかるんか?」



話しかけてきたのはこの辺りに住む野良猫だった。


事情を話せば驚いて呆れていた。
以前何度か付き合った事のあった彼女も今では4匹の子持ちらしい。

「だからあの時、野良として一緒になりましょうって言ったのに」


「すまんの、ブンちゃんに悲しい顔させたくなかったんじゃ」

「そんなだから私に子供出来なかったのね〜。ところでニオウは結局玉なしになったの?外に来なくなってしばらく噂になってたけど」

「…お前さんメスのくせになんつう事を。…今は旦那おるんじゃろ?」

「あー…それが半年前に車にねー」

「すまん…」

「ま、野良として生きる以上仕方ないわよ」



明るく笑った彼女に強さを感じた。
そしていつも守ってくれていたブン太の優しさと家を追い出された事の哀しさが渦巻いた。




「もし戻れなくても気落とすんじゃないわよ!」


「おん」

傷んだ毛で以前より痩せた彼女を見送ると俺はまたベンチに横になった。






ーーーーー






朝になった。
結局、あのまま仁王は帰って来なかった。




「どこ行ったんだよ…」






いつもならオレが目覚めるより先に目を覚まして、早くご飯にしろとオレを起こす。


今日はその目覚ましがなかったせいか時計を確認するとまもなく昼になろうとしていた。
部屋を見渡しても仁王が帰ってきた気配はない。


不安になりながら食事もそこそこに済ませると仁王を探しに外に出かける事にした。









―――――










「仁王ー?」



仁王は野良猫だった。
近所の公園で弱っていたのを見つけて病院に運んだ。

その時以来退院して来た仁王はオレの家の飼い猫になった。




最初こそ噛み付かれたり引っ掛かれたりして、イタズラも多かった仁王を可愛いなんて思う事はなかった。
それでも一緒に暮らし始めて、徐々に懐いてきたあいつが玄関で出迎えていたり、寒くなると布団に潜り込んでくると可愛くて仕方なくなった。


だからあの時も。
仁王が発情期になって毎晩メス猫の元へ出歩くのが寂しくて心配になった。






嫌な結末だけは考えないようにしながら住宅地を歩く。



「…あ、」



目の前を横切った猫と目が合った、気がした。

近付いても逃げ出さなかったその猫はオレを案内するかのように走り出した。


「ちょっ、待てって」


とりあえず追い掛けよう。オレはその短い尻尾の猫を見失わないように必死だった。








―――――






子供達の騒がしさに目を覚ませば太陽が昇っていた。
昨夜は結局、寒さに耐え切れずベンチではなく公園内のアスレチックに身を潜めて寝た。


「っ、ぶしゅん…さむ…」

「あー、起きたー!!」
「こら、近寄らないの!」


人間の身体は不便だ。
野良猫の時は寝床に困る事はなかった。
雨さえ凌げればどこでも寝れた。
他の奴らと身体を寄せ合い寒さに耐えた時もある。

しかし今の姿では不審者か浮浪者にしか見えないらしい。
好奇の目を向ける子供を連れた母親達からは鋭い視線が向けられている。



鼻を啜って辺りを見渡すと太陽が真上に来ていた。


「…腹減ったのぅ」



何か食べれる物はないだろうか。
起き上がった俺に騒ぎ出す子供達を無視して公園を後にした。





―――――







猫が案内したのは公園だった。



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