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「警察は止めてくんしゃい!」

「だってどう見ても変質者だろうが」

「……」

目を覚ますなり警察を呼ぼうとするブン太を食い止める。
いや、確かに猫耳と尻尾の生えた人型の男が真っ裸で布団にいたらそう思われても仕方がないがこれは俺の意思ではない。
ちなみにブン太はベッドに腰掛けて、俺は布団から下ろされカーペットに正座なう。


「……」

「……ブンちゃん?」

「なあ、猫の仁王どこ行ったんだよ!」

「だから俺がそうなんよ」

驚くのも無理はない。
…あのサンタ、やっぱりエセじゃろ!

「お前マジで仁王なの?」

「おん」

「………」

「………」

さっきからこの繰り返し。
全く信じてくれないブン太に悲しくなるが、どうしてこうなったかが自分でもわからないからどうしようもない。

とりあえず、俺は自分の願った事を口にする。
サンタに、なんてそれこそ信じてくれないだろうから俺の気持ちとして。

「俺な、ブン太と人間の言葉で会話してみたかったんじゃ」

「……」

「昨日の誕生日に新しい首輪貰って、旨い缶詰も貰って、ありがとうって言いたかった」

俺を怪し気に見ていたブン太がその言葉で表情を変えた。

「そうだよ、首輪!」

「え、」

俺の首に手を伸ばすと昨日貰ったばかりの赤い首輪を見つめる。

「………ホントだ」

「ん?」

「…誕生日だから、名前刺繍してもらったんだ」

「…そか、ありがとうな」

嬉しくていつものようにブン太の足に擦り寄る。


…つもりだった。



「…いやいや、寄るな!」

「何でじゃ」

「…何つうか…変態っぽい」

「は?」

「お前まず服を着ろ!」

ああ、そういえば真っ裸だった…。
仕方ないんじゃ、昨夜まで元の猫の姿してたから。



そうしてブン太の出してきた服を着るにもサイズが小さく、ため息を吐きながらも昼間には買い出しに行ってくれる事にしたブン太を大人しく待つ事にした。








―――――







「…ただいま」

「ブンちゃ〜ん」

「……それはやめろ」

「?」

買い出しから帰ってきたブン太を迎える。
いつものように抱き上げてほしくて、寒さに耐えれず包まっていた毛布を羽織ったまま駆け寄った。

「いや、全裸の男が毛布広げるとかヤバイから」

「…よくわからんぜよ」

ブン太の言いたい事がいまいち理解出来ないが、今は服を着る事が先だ。

「…ケツがムズムズする」

「…ああ、尻尾が出ないのか」

耳はともかく尻尾が問題だ。
ブン太はハサミを持ち出すと、ちょうど尻尾の出るあたりの布地を切り抜いた。

「よし、これでいいだろ」

「…ブンちゃん、尻尾出してくんしゃい」

切り抜かれた穴に尻尾を通そうとするものの思うようにいかない。

「お前、手使えよ…」

しかし呆れながらズボンの中に手を入れると尻尾を掴んで穴に通した。

「ん、すまんの」

「……まあいいけど。にしてもお前さ…」

「なん?」

「猫の時と毛並み同じなんだな…すげえふわふわ…」

尻尾を掴んだまま何を言うかと思えば。
いつものように尻尾の先を指に絡められて体がゾクゾクした。


「っん、ブン太待って、止めぇ」

「ん?」

手を止めたブン太に安堵する。

「尻尾、触らんで…」

「何でだよ」

「何か、ゾクゾクする」

「…知ってる」

二ッと笑うブン太はよく見る顔だ。
この顔をする時は決まって腰を撫でる。
そこを撫でられると何だかフワフワして、つい腰が上がる。

しかし今日は、幸か不幸かいつものように四つん這いではない。
尻尾をピクピクさせながら耐えているとブン太の手が離れた。

「……っ、ブン太?」

「…うん、お前やっぱ仁王だわ。…めっちゃ可愛い」

抱き締められて頭をポフポフされるとホッとする。


「よし、んじゃ昼飯にするか」

「おん」









―――――







「お前は何で魚食わねえんだよ…」

「ぴよ?」

ブン太は昼ご飯に魚を焼いた。

俺は箸の使い方がよくわからずに躊躇したがブン太が身をほぐしてくれた。

それでも。

「…ブンちゃんこれイヤじゃ〜口ん中チクチクするぜよ」

「んな小骨ぐらい食え!」

怒るブン太は自分が食べ終えた食器を片すと冷蔵庫から何かを取り出した。


カシュッ


「ブンちゃん!」

「何だよ」

「俺にもそれくんしゃい」

「え?ちょっ、こら」

冷蔵庫の前に立つブン太に近寄る。
あの音は昨日も聞いた。
あれは旨い物が出てくる音だ。

「おい仁王、やめろって」

口の周りを舐めると何だか甘い匂いがして舌は少しヒリヒリする。

ん?

「違うなり…」

「はあ〜…ったく、何だよ」

しばらくして離れるとブン太は呆れていた。

「昨日と同じかと思ったんじゃ」

「昨日?…ああ缶詰か。違えよこれはコーラ、食い物じゃなくて飲み物」

「……」

「缶詰食いたいのかよ?」

「…おん」

「しょうがねえな…」



そして開けてもらった猫用の缶詰は結局食べれる気にはならず、食事は晩ご飯までお預けとなった。







―――――







「ブン太」

「ん?」

「腹減ったなり」

その声に目を覚ます。
いつの間にかコタツでうたた寝をしていたらしく外はすっかり暗くなっていた。




「そういや昼食ってないもんな…」

「晩ご飯まだかのぅ?」

「んーちょっと待ってろ」

いつものように、台所へ向かうブン太の後を追う。

「俺さっきのは好かんなり」

「わかったわかった」

冷蔵庫を確認するブン太に話し掛ける。
いつも足元でそうしてるように。

「ブンちゃん旨い物ありそう?」

「そうだなぁ」

「あ、あとな野菜?も好かんのぅ」

「…はいはい」

「それからな、」

「…ちょっと黙ってろ」

こんな時ブン太は、いつもなら笑って頭を撫でてくれる。

「っ!?」

「…お前何なんだよ、さっきから!」

だけど今日は…いつもなら頭を撫でてくれて、食べ終わったら膝で寝かせてくれるブン太が、怒ってる。

「朝起きたらこうでしたーとか、はっきり言って意味わかんねえし、つうか好き嫌いばっかでめんどくせし。何?いつも足元チョロチョロしてたのは文句言ってたのかよ」

「…ちが、う」

「とりあえずさ、俺が一緒にいたいのは猫の仁王なわけ、だからさ誰だか知らない仁王は」



出て行って…









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