番外編〜2012丸井誕生日〜

「……何だよ、オレだけのけ者かよ…」


高等部に進学し、1週間程が過ぎた。
生徒のほとんどが中学からの持ち上がりの為、新しいクラスに慣れるにはそう時間はかからなかった。


中学時代は手芸部だった。
高校ではアルバイトを始めてみたいと思っていたから、部活の事はまだ悩んでいる。
しかし、友人を訪ねようと帰りに立ち寄ってみたテニスコートで見た光景にショックを受けたブン太は、結局声をかけずに帰る事にした。



「あれ?今ブン太先輩いませんでした?」

「気付かんかったぜよ」

「ところで赤也、当日なんだけど」

「大丈夫ですって!」

「赤也だけだと心配なり」

「マサ先輩っ!」

「冗談ぜよ」





―――――





あれは先月の事だった。



中等部の卒業式を間近に控えた3月中旬。
いつものよう幸村のいるC組に向かうと、その日も後輩の赤也と、同じクラスの仁王がいて楽しそうに会話していた。

(精ちゃんのとこ行くならオレにも声かけろよ…)


「あ、ブン太!」

「!!」

「ブン太はホワイトデー何が欲しい?」

「え?」


入口で立ち止まっていると気付いた幸村が駆け寄ってきた。


「ほら、バレンタインにはみんなからチョコ貰ったでしょ?だからお返し何がいいかなって」


ニコニコと話す幸村はやはり格好良いし美人だ。
クリスマスの手編みマフラー以来、ライバルが1人増えたが幸村への憧れは変わらない。


「あ…じゃあ、精ちゃんと買い物行きたい…な」


もちろん2人だけで。


「いいよ」


「やったー」と抱き付けば、「3人とも仲良いね、俺妬けちゃうな」と意味深な言葉。


「え?」

「マサと赤也も同じ事言ってたんだよ?俺抜きで遊びに行くのが心苦しいからって、そんな風に誘われるとちょっとへこむなー」

「ち、違うって」

「ふふ、冗談だよ」


結局、こうしてホワイトデーは4人でショッピングと言う哀しい結果だった。
しかし、またも3人で話してる場面を見かけてしまっては、自分は邪魔なのではないかと気になってしまう。





「ブン太、おはよー」

「…はよ」


翌日下駄箱で顔を合わせた仁王は、いつものように話し掛けてきた。
先のマフラー以来、縁のない眼鏡をかけるようになった仁王は、この新学期から本格的にコンタクトレンズにしたらしく、最近では自然と笑顔が向けられる。


「あんな、来週なんやけど」

「わりぃ、オレさアルバイト決まったからしばらく無理」

「え、」

「だから帰りも先帰るから」

「…わかった」


仁王が2人と仲良くなれたのはオレがいたからなのに。
まるで今までの自分の居場所を取られたようで、一緒にいる事に居心地が悪くなった。


「バイト、頑張ってな」

「うん…」


本当はまだ決まってなんかない。
だけど、3人が楽しそうにしている所に加わっていくのが怖かった。







「マサ、ブン太に伝えてくれた?」

「精ちゃん…。それがな、ブン太アルバイト始めたらしいぜよ」

「え?」

「やけん、帰りも先帰るって」

「……」

「また後で伝えれば良かよ」

「…うん」







「あ、ブン太先輩!」

「赤也…」


昼休み、1人で落ち着ける場所を探してまだ慣れない校内を歩いていると、中等部の方から名前を呼ばれた。


「どこ行くんすか?今からそっち行くんですけど。昼ご飯一緒に食べましょうよ!」

「…いや、今日は…わりぃ…」

「え?あ、ちょっ、ブン太先輩!?」


またしても3人で…そう思うと悲しくて、赤也に背を向けるとその場から走り出していた。


「何なんだよぉ…」


人目のない階段の踊り場まで来ると、呼吸を整えるつもりが涙が零れて止まらなかった。





「……」

「おー赤也、遅かったの」

「どうかした?」

「いや…なんつうか…さっきブン太先輩に会ったんすけど、元気ないっつうか避けられてるみたいな感じがして…」

「……」

「やっぱり、先輩に教えた方が」

「…いや、俺に任しときんしゃい」


ブン太を心配する赤也の言葉を遮った仁王の笑顔は、いたずらを思いついた子供のようだった。







「(4月19日…)」

手帳を開いたブン太は、ため息を漏らした。


明日になれば花も恥じらう華の16歳だと言うのに、まったく楽しみになれなかった。
原因は相変わらず3人とのすれ違い。
自分が気にせず今までのように接すればいいだけなのだが、クラス替えの際、仁王と幸村は同じA組、ブン太はF組と離れてしまった時から何となくこうなる予感はしていた。
しかも後輩の赤也までもが2人と親しそうなのも気に食わなかった。







「…ただいまー」


誕生日当日。
学校では友人達からプレゼントやお祝いの言葉を貰って、それなりに楽しく過ごせた。
それでも誰より仲が良いと思っている3人からはメールやプレゼントは愚か、顔さえ合わさなかった。



重い気持ちのまま玄関を入る。
家の中からは甘い匂いが香ってきて、沈んでいた気持ちが何となく軽くなった。

落ち込んだ時は好きな物を食べるに限る!
それに今日は誕生日だ!
母さんがケーキを焼いてくれたのだろう。
それにいちいち小言は言わないはず。


そう思ってリビングのドアを開いた。





『誕生日おめでとう!ブン太(先輩)!』

「え…!?」


ドアを開けたブン太を出迎えたのは家族ではなく、何となく会いたくなくて、でも誰よりも会いたい3人の笑顔とクラッカーの音だった。


「な、んで…」

「やりましたね、マサ先輩!」

「おう」

「ちょっと2人共!ブン太が呆けてるよ?」


状況が飲み込めずに驚いてるブン太を見て、嬉しそうな赤也と仁王。
そんな2人に注意した後、幸村が優しく微笑んで問い掛けてきた。


「ビックリした?」

「そりゃあ、もう…」

「良かった」

「精ちゃん、説明してやらんとブン太わかってないぜよ」

「え?ああ!あのね」








「ブン太の誕生日にサプライズをしたい」
仁王が幸村にそう相談したのは卒業式を目前に控えた3月の事だった。


「サプライズって…例えば?」

「…まだ考えてないんやけど」

「そうだなぁ…あ!今度プレゼント選びに出かけて考えようか」

「おん」

「…先輩達、デートっすか?」

「赤也いつからおった?」

「今ですけど!って、いいなぁ俺も幸村先輩とデートしたいー!」

「赤也、これは作戦会議なんじゃ!遊びとは違うんよ」

「へ?作戦って何するんすか」

「ほら、来月ブン太の誕生日でしょ?だからサプライズをしかけたいんだ」

「サプライズ…」

「そう。だから赤也もこの作戦の事はブン太に内緒だよ?」

「了解っす!」





こうしてホワイトデーのショッピングで、オレの誕生日プレゼントを考えてくれていたらしい。
度々3人でいたのも今日の段取りや準備の為だった。


「ごめんね、黙ってて」


飾り付けられた室内を見回してると幸村が申し訳なさそうに声をかけた。


「ううん!オレの為にこんな事してくれて…すごく嬉しい」

「そっか。良かったね、マサ」

「え?」

「今回サプライズにしたいって考えたのマサなんだ」

「!」

「…俺、喋るの苦手やけん、ブン太のおかげで精ちゃんや赤也、他にも友達出来た…だから、ブン太にどうしてもありがとうって伝えたくて…」


言いながら俯く姿は、初めて会話した日を思い出させた。


「な、何言ってんだよ〜。マサにはマサの良さがあって皆マサが好きなんだよ」


ブン太の言葉に感極まった仁王が涙を浮かべた為、つられそうになったブン太も笑顔を向けた。





「先輩っ、これプレゼントっす」


赤也が差し出してきた袋を受け取る。


「ポーチ?」

「手芸部部長として、俺ちょー頑張りましたから!」

「サンキュ」


得意気に話す後輩が可愛らしい。


「ブン太…」

「精ちゃん」

「俺からは…これ」

「お、可愛いお弁当箱!」

「俺も何か作れれば良かったんだけど、生憎不器用だからさ。だからせめて、ブン太の楽しみな物にしたいなって」

「精ちゃん、ありがとう」


嬉しい勢いで抱き付けば頭を優しく撫でてくれる。



「マサ先輩!ケーキまだっすか?」

「今、持ってく…!」


急かす赤也に答えると、キッチンからケーキを持った仁王が出てきた。


「ブン太、これはマサからのプレゼントだよ」


幸村に促されるようにテーブルに置かれたケーキを覗く。


「うそ…」

「すごいっすよね、マサ先輩!」


幸村や赤也が嬉しそうに話すのも頷ける程、仁王の手作りケーキは本格的なデコレーションだった。


「え、料理得意だったのかよ…?」

「料理は苦手なり…でも菓子作るのは好きなんじゃ」


自分も菓子作りに自信はある。
バレンタインの時も幸村には手作り、仁王と赤也には市販の物だがみんなに渡した。
仁王からも形も可愛らしく、とても滑らかでおいしいチョコを貰ったが、まさかあれも…。


「そういえばバレンタインのチョコもきれいだったね」

「みんなに作ったけん、時間はかかったんやけどな」


………。


「あれ?ブン太先輩?何泣いてんすか」

「嬉し泣きだし!」




仁王はやはりライバルでしかない!
そう言い聞かせながら頬張ったケーキは、やはり自分が作るよりも美味しい気がして悔しい。


「(マサには負けねえ!)」


それが16歳のブン太の目標となったのだった。






(そういえば母さんは?)
(夕飯の買い出しだって)

(てゆうか、3人はいつからオレんちに?)
(ふふふ)
(あー…)
(秘密なり)







おわり

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